社長それは蛙化現象ではありませんか? 秘書の私におまえなら大丈夫かもと契約仮恋愛を押しつけ溺愛してくるので仕事と割り切ることにしました。

41/42
98人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
「千景、中に入ろう?」 社長が手を握ってくる。が、私は放心状態。いやもとい。パニックになってしまった。 「ちょちょちょ待ってください」 私に社長の公開プロポーズの場に居るようにと? このイベント強制参加ですか?? そんなの辛すぎる。私にとっては公開処刑だわ!! 「しゃ、しゃちょう、わ、わたし、たいちょうわるくてですね、これでかえらせてもらおうと、さむけがして、つ、つつつわりか、かぜか……」 「え? 今なんて言ったの? ひらがなばっかでよくわかんなかった……え? つ、つわり?? つわりって言ったの??」 「風邪です」 「びっっっくりしたあぁぁ!! やめてよ!! そういうの!!」 そう言って、熱は? とおでこに手を乗せる。 「熱はないみたいだね。そっか、さっき水ぶっかけられたもんね」 社長は少し悲しい顔をして、「なあ、パーティーもクライマックスだし、あと少しの時間で終わるからさ。帰りは送るから、もうちょっと付き合ってくれない?」 私の弱さがここにある。そんな悲しい表情の社長、見たくありません。 私は心の中で両手を上げて降参のポーズをした。 「……わかりました」 小さく頷いた。 覚悟を決めなければならないだろう。社長と私がお付き合いできるなんてことは、現実にはあり得ない。諦めろ、私。 諦めろ、千景よ!! だから、ここは鉄の心をもって、他のお嬢さまとの婚約発表に臨むしかない。 すると、社長は握っていた私の手を握り直し……ん? これはいわゆる恋人繋ぎ? 一度だけ、等身大パネルのトーマくんと、試したことがある。指がなくてできなかったけどww 「千景、そのドレスとても似合ってる。可愛いよ」 さあ、行こう!! そう言って二人、会場へと入っていった。 * 「え? これどういう状況??」 恋人繋ぎの手を、なかなか離さないなあと思っていたら。振り解こうと何度試みても、解けない。知恵の輪か。 壇上には社長と私。そして、周りから悲鳴やら拍手やら悲鳴やら(2回目)が聞こえてくる。 私の前には、膝を折った社長が、片ひざをついて手を差し出している。その手には、小さな箱。 そして。 「千景、俺と結婚して欲しい」と。 ん? あれ? サクラさんは? きょろっと視線を回すと、ステージの下にその姿を発見。めっっっちゃ涙目で拍手してる!! 「千景さん! 祐樹のことヨロシクねっっ」 視線を戻す。 あれいまわたしがぷろぽうずされてるの? 混乱の中、頭は真っ白の灰だ。 「千景、返事して?」 社長が、くうんと耳の垂れた犬のような顔で見てくる。 結婚? 結婚して欲しいって言った? 「社長、か、カエルは?」 すくっと立ち上がり、そして。 「カエル化はまだ治療中だよ。それに千景にイエスをもらえれば、『蛙化現象』克服のクエストがいつだってできるんだ」 あ、社長。微かに手が震えている。そして真っ直ぐに私を見つめてくる真剣な瞳から、社長の本気がこれほどまでに伝わってくる。 じわりと来た。じわりじわりと。 私は頑張って声にした。 「……社長、『ベッドに一緒に入って見つめ合ってみましょう。これで蛙化が発動するようであれば、また別の方法を試してみればよし。発動しないようであれば、関門クリアということで』ということでしょうか?」 「さすが俺の千景。記憶力抜群だね」 じわと滲んでいた涙が、溢れて落ちた。 それは私がトイレでずぶ濡れにされた日、社長が自宅へと招いてくれて、そして二人、同じベッドで眠った日のこと。 キラキラと輝いては蘇ってくる、私の宝物のような、社長との思い出。 「社長、逆にカエルは浮気防止のお守りになるかもしれませんよ」 「そんなのなくても浮気なんかしないけど。まあでも確かにな。俺がカエル化しないのは千景、おまえだけだから」 ふっとはにかんで笑う。 ああ、そんな社長の笑顔が大好きだ。かっこよくて優しくてハイスペで面白くて、ちょっと可愛いとこもある私の上司。 「社長、大好きです」 社長は、ほっとした表情を見せると同時に、「やっっった」とこぶしを握る。 まだ少し震えている手で指輪を箱から抜くと、私の手を取って、指輪を左薬指へとはめた。 「千景、愛してるよ」と言いながら。 わああぁあっと会場が沸いた。(悲鳴含む)
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!