社長それは蛙化現象ではありませんか? 秘書の私におまえなら大丈夫かもと契約仮恋愛を押しつけ溺愛してくるので仕事と割り切ることにしました。

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お相手の坂下夕実さんに対して、嫌悪感を持たせないようにしなければならない。正直難しい。社長側の気持ちの問題だからだ。 私の記憶によれば、坂下夕実様は坂下商会の次女、華道の師範の資格を持つ、見目麗しい着物美人だ。 非の打ち所がない女性なので、今回は蛙化は発動しないような気がするけれど……。 念のためにも、社長の過去の女性遍歴リストに載らないよう、なんとしても蛙化を阻止せねばなるまい。 「とりあえず電話しよう」 パンパンで重たい名刺入れを取り出す。ぱらぱらとめくっては、載っている電話番号にかけまくった。 * お食事会当日。 高級ホテルの最上階レストラン『四季』。懐石料理のフルコースを予約してあり、下準備はバッチリだ。掛け軸やらなんやら和風な雰囲気、窓から見える夜景は息を呑むほど素晴らしい。 「まあ素敵なお店ですね。当麻さん、ここへはよくいらっしゃるのですか?」 坂下様はそんな雰囲気にぴったりな和装姿。さすが師範だけあって、お高そうな着物を粋に着こなしている。 「はい。ここは俺のお気に入りのお店なんです。薄味に仕上げてはあるが、メシも美味いですよ。お口に合うと思います」 「楽しみだわ」 「夕実さん、どうぞこちらへ」 イスを引き誘う。 うんスマートでオッケーな所作でございます。 「……あの……この方は?」 そうでしょうとも。 「坂下様、私は当麻の秘書をしております谷口と申します。本日はこちらのお食事会のセッティングを仰せつかりました」 社長がすすすと寄ってきて、耳打ち。 「なあ、なんか席が多くね?」 見渡すと、20人ほどの席が確保されている。もちろんその人数で予約したのは、私ですが。 「それはですね、」 私が説明しようとしたその時、コンコンとノックがあり、ドアが開いた。 「こんばんは! あら当麻さん、この度はお招きをありがとうございます!」 「わあ素敵なお部屋ね、景色も良いわあ〜」 女性が次々と入ってくる。 政治家田上様のご令嬢、理子様。弁護士事務所の所長、柚様。アパレル会社のご令嬢、リン様他etc。 「え? あれ? 皆さんどうされたんですか?」 社長が鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしている。 「いやだわ! 当麻さんがお招きくださったんじゃないですかあ」 わあっと盛り上がる女性たち。そんな中、私は冷静に対応していった。 「理子様どうぞこちらへ。柚様はこちら、リン様は窓際のお席へどうぞ……」 私がお一人ずつ席をご案内すると、たちまち個室がガヤガヤと騒がしくなった。
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