99人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
お相手の坂下夕実さんに対して、嫌悪感を持たせないようにしなければならない。正直難しい。社長側の気持ちの問題だからだ。
私の記憶によれば、坂下夕実様は坂下商会の次女、華道の師範の資格を持つ、見目麗しい着物美人だ。
非の打ち所がない女性なので、今回は蛙化は発動しないような気がするけれど……。
念のためにも、社長の過去の女性遍歴リストに載らないよう、なんとしても蛙化を阻止せねばなるまい。
「とりあえず電話しよう」
パンパンで重たい名刺入れを取り出す。ぱらぱらとめくっては、載っている電話番号にかけまくった。
*
お食事会当日。
高級ホテルの最上階レストラン『四季』。懐石料理のフルコースを予約してあり、下準備はバッチリだ。掛け軸やらなんやら和風な雰囲気、窓から見える夜景は息を呑むほど素晴らしい。
「まあ素敵なお店ですね。当麻さん、ここへはよくいらっしゃるのですか?」
坂下様はそんな雰囲気にぴったりな和装姿。さすが師範だけあって、お高そうな着物を粋に着こなしている。
「はい。ここは俺のお気に入りのお店なんです。薄味に仕上げてはあるが、メシも美味いですよ。お口に合うと思います」
「楽しみだわ」
「夕実さん、どうぞこちらへ」
イスを引き誘う。
うんスマートでオッケーな所作でございます。
「……あの……この方は?」
そうでしょうとも。
「坂下様、私は当麻の秘書をしております谷口と申します。本日はこちらのお食事会のセッティングを仰せつかりました」
社長がすすすと寄ってきて、耳打ち。
「なあ、なんか席が多くね?」
見渡すと、20人ほどの席が確保されている。もちろんその人数で予約したのは、私ですが。
「それはですね、」
私が説明しようとしたその時、コンコンとノックがあり、ドアが開いた。
「こんばんは! あら当麻さん、この度はお招きをありがとうございます!」
「わあ素敵なお部屋ね、景色も良いわあ〜」
女性が次々と入ってくる。
政治家田上様のご令嬢、理子様。弁護士事務所の所長、柚様。アパレル会社のご令嬢、リン様他etc。
「え? あれ? 皆さんどうされたんですか?」
社長が鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしている。
「いやだわ! 当麻さんがお招きくださったんじゃないですかあ」
わあっと盛り上がる女性たち。そんな中、私は冷静に対応していった。
「理子様どうぞこちらへ。柚様はこちら、リン様は窓際のお席へどうぞ……」
私がお一人ずつ席をご案内すると、たちまち個室がガヤガヤと騒がしくなった。
最初のコメントを投稿しよう!