社長それは蛙化現象ではありませんか? 秘書の私におまえなら大丈夫かもと契約仮恋愛を押しつけ溺愛してくるので仕事と割り切ることにしました。

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「ちち違いますよ! 風邪でもひいたんじゃないかと思います」 「そうなの? それにしてもいつもと違って可愛らしいかっこしてるねぇ。似合ってるよ、そのドレス」 工藤さんは、推定年齢40歳、独身貴族でいつも飄々とした空気をまとっている。女性社員にも人気でその中の一部によってイケオジファンクラブも設立されているらしい。会員は9名。なかなか微妙な数字だが、まあうちの社長には敵うまい。 「ありがとうございます。ただ、寒気が少し……」 「寒いの??」 顔を覗き込んでくる。 その時。 悪寒が走った。 ぞぞぞっと、全身が寒ボロに包み込まれていく。 「く、工藤さん」 近い。近すぎる。私は少し距離を置こうと、二、三歩後ずさった。 「大丈夫??」 遠ざかったイケオジ(であるはず)の顔が、また近づいてきて。 不思議なことに、工藤さんの顔がもやや〜んとカエルに見えてきた。 なるほど。合点がいった。これが例の、『蛙化現象』だね!(←ちょっと違う) 「工藤さん、私、本当に体調が悪いので、か、帰ります〜」 「ちょっとぉ、主役がどこに行くの!!」 ん? 主役? なんの話だ? まあいい。帰ろう。腕を振り払おうとして失敗。だが、諦めない。私は、腕を掴まれたまま、エレベーター方面へと振り返り、足をふんじばって立ち去ろうとしたら、そこに社長のお姿が。 「工藤さん、千景は俺の秘書です。その腕を離してください」 「あれ? 当麻社長? まだこんなところにいたの?」 工藤さんは、鳩が豆鉄砲を食っらったような顔をしている。 「もうすぐ婚約発表でしょ?」 「はい。5分後です」 「これは見ものだね。楽しみにしてる!!」 そう謎の文言を言い残して、去っていってしまった。え? どういうこと?? 「婚約発表……って、え?」 「千景には言ってなかったけど、色々と噂されるより、はっきりした方がいいと思ってね。婚約発表っていうか、公開プロポーズしようと思ってる」 「そう……なんです、か」 お相手さまは? と訊くまでもない。 サクラさんだ。 はい、終わり。 イケオジ工藤さんのお陰で、ようやくカエルの何たるかを理解できた気がしたというのに。その生態がわかりかけたというのに。
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