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「いっぱい買っちゃったね」
「ごめん、梨紗に持たせちゃって」
「いいよいいよ、いつも沙織持ってくれるじゃん」
今日の買い物デートは、沙織に似合う服がいっぱいあって、たくさん試着もして、あーだこーだ言いながら照れたりノリノリだったり、楽しかったなぁ。
「荷物あるから今日は沙織ん家行こうよ」
「え、ダメだよ」
「なんでよ」
「梨紗を送るのは私の役目だもん」
いつもそう言って送ってくれるから、私は沙織の家に行った事がない。
「まだ早い時間だから、大丈夫だよ」
「いや、そういう問題じゃないんだよ」
「私を家に入れられない理由があるわけ?」
「えっ、いや、そんなことは」
「沙織のお家に行きたいなぁ」
こういう風にお願いすると、必ず「いいよ」って言ってくれるんだ。
「さん、いや、2か月待ってくれる?」
「は? なんで」
「ごめん、この通り」
深々と頭を下げられたから、私も慌てる。
「やめてよ、そんなこと。わかったから」
結局いつものように私の家でお茶をしてイチャイチャして帰って行った。
いくら恋人とはいえ、プライバシーはあるし、私は平気だけど自分の家に他人を入れるのを嫌がる人もいるだろうし、まぁほんのちょっと寂しい気もするけど、沙織の気持ちは尊重しないとなって思っていたんだ。あの話を聞くまでは。
1ヶ月ほど経ったある日、会社の給湯室でたまたま聞いてしまったのだ。
「へぇ山口さん、小澤さんの家に行ったの?」
「そうなんです、ちょっと呼ばれて」
え、沙織の家にお呼ばれ?
話していたのは、同期の山口さんと先輩の市川さんだった。
「どうして……」
「あら、石川さん。石川さんは仲良いから小澤さんの家に行ったことあるんじゃ?」
先輩は興味津々という感じだ。
「いえ、私はないんです。どんな感じでした?」
「あ、いや、まぁ普通だよ。それより先輩ーー」
何故か山口さんは歯切れが悪くすぐに違う話題へ移ってしまった。
なんで? なんで私は入れてくれないのに山口さんは入れるの?
訳がわからなくなった。悲しいというより、裏切られた気分で怒りの方が大きくなって、その日の仕事は上の空だった。
定時に帰ってご飯食べてお風呂に入ったら、速攻でベッドへ潜り込む。
何も考えたくない、沙織からの着信も
無視し続けた。翌朝見ると、体調が悪いのかと心配しているメッセージがたくさん入っていたけど、返信しなかった。
何も考えず仕事だけをして帰る、虚無な日々を数日過ごした。その日は金曜日だったけれど断りきれなかった残業をして、家に着いたら沙織が玄関前に佇んでいた。
「梨紗」
今にも泣き出しそうなか弱い声だった。
「悪いけど帰って」
「なんで……怒ってるの?」
時間が過ぎれば収まると思っていた怒りがまたぶり返す。
「帰って」
自分が発した大きな声に、自分でも驚いた。玄関先でこんな痴話喧嘩、したい訳じゃない。
沙織はもう涙を溢し始めていた。
「ここじゃ迷惑だから入って」
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