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「今度はどこ行く? 秋冬ものでも見に行く?」
今日は残業があって、沙織と会えずに家へ帰ってきた。そんな日は決まって寝る前に電話で話をする。
「それもいいけど、たまには遠出しない?」
「遠出?」
「うん、レンタカー借りてドライブとかさ。私、海が見たいなぁ」
「どらいぶ」
そう言ったきり、無言になった。
私も沙織も、免許はあるが車を持っていないのでドライブデートは今までした事がない。
お酒の力での雰囲気作りに失敗した私は、マンネリではなくいつもと違う行動や場所ならどうかと考えた。海なら雰囲気も良さそうだし気分も盛り上がりそうじゃない?
「あ、気が乗らないならいいよ、新しいコートでも買いに行く?」
あまりにも返事がないので、怒ってしまったのかと思った。それとも私の我儘に呆れたか?
「ううん、そうじゃなくて。私も行きたい」
「そう、良かった」
やっぱり沙織は優しいな。
「うん、でもちょっと時間が欲しい」
「ん?」
「2ヶ月、いや1ヶ月でなんとか……来月でいいかな?」
「え、うん、いいけど」
なんで? まぁ少し寒くはなるけど大丈夫かな。
それからの1ヶ月、沙織に会えなくなった。会社では見かけるけれど、退勤後の食事もなければ、週末も用事があるってデートも出来ない。理由を聞いても「ごめんね」って謝られるばかり。
そんな日々が続いて悶々としていたお昼休み、エレベーター前でバッタリ沙織と会った。上司っぽい人と一緒なので帰社したところのようだ。
「あっ」
「おつかれさま」
すれ違った私は未練がましく後ろ姿を見ていた。
「30分後に出るから」
上司っぽい人の言葉が聞こえて、そして去って行った。
沙織は会釈した後振り向いて、私がまだここに居る事に驚いていた。
「忙しそうだね」
営業職の沙織は期待されているのだろう。
「梨紗は今からランチ?」
「うん、一緒にどう?」
「時間ないから私はコンビニにするから」
「なら私もそうする」
「いいの?」
「少しでも一緒がいい」
「よし、じゃあ急ごう」
二人で近くのコンビニでサンドウィッチと飲み物を買ってきてベンチに座る。
「なんか久しぶりだね」
今まで何かと一緒に過ごしていたから、少し会わないだけで寂しさが募っていた。
「ごめんね、付き合わせちゃって。友達とランチだったんじゃない?」
「沙織と一緒がいいの、そう言ったよね」
沙織の性格だから遠慮するのはわかるけど、私の気持ちわかってないの? 沙織は私と会えなくても寂しくないの?
「うん、嬉しい。今日は梨紗に会えたからスペシャルデーだ、午後も頑張れそう」
久しぶりに見た沙織の笑顔に、ホッとした。忙しいだけで、距離を置かれたわけじゃないよね、ドライブデート出来るよね。
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