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「お待たせ」
うん待ってたよ、この日をずっと。
「あ、可愛い車」
「うん、梨紗こういう感じ好きかなと思って。レンタカーだけどね」
照れ隠しなのかサングラスをかける沙織は、いつにも増してカッコよくて、約束のドライブデートは最初からドキドキだった。
道中はハンドルをしっかり握って、視線は前方を向いている。さっきから、追い越し車線をどんどんと他の車が抜いていくけれど、全然気にしてない様子。速度をきっちり守っている。私と同じように普段運転していないから緊張しているんだろう、見るからに肩に力が入っている。
「大丈夫?」
「はい、教官」
「へ、教官?」
「はっ、あっ間違えた」
「えっ」
「先週まで教習所に行ってたから、つい」
「なんて?」
「ペーパードライバー講習に行ってた」
用事ってそれだったの?
「なんで」
「ずっと車の運転してなかったから、自信なくて。梨紗を乗せるんだから安全第一じゃないと」
私のため、私がドライブデートしたいって言ったから、仕事の後や週末に教習所に通ってたの?
「沙織ってば……私のこと好きすぎじゃないの」
「あはは、そうだね」
ぎこちない運転だけど、きっちり安全運転をしてくれて、無事に到着した。
まずはお茶しようとカフェに入る。
「予約した小澤です」
席に案内されると思わず息をのんだ。
「凄い」
「綺麗だね」
目の前に海が広がっていた。
「ここはアフタヌーンティーセットが美味しいらしいよ」
そしてメニューを見せてくれる沙織。
「本当だ美味しそう」
「あ、そろそろ行こうか」
会えなかった時間を取り戻すかのように喋り倒し笑い合い、時間を確認して店を出た。
「少し歩こう」
「うん」
「寒くない?」
「大丈夫」
「そろそろかな」
「何が?」
沙織の視線の先に顔を向ける。
「うわぁ、何これ」
「うん、想像以上だ」
大きな夕陽が、今まさに海へと沈もうとしていた。
全部、リサーチして連れて来てくれたってこと?
海が見えるカフェも予約済みだったし、人気のメニューや日の入りの時間だってーーそりゃ調べればわかる事だけど、それ全部私のために?
なんだかもう、いろんな感情が溢れて言葉にならなくて、隣に佇む沙織の手を握った。
沙織もしっかり握り返してくれたから、私は頬にキスをした。
ビックリして私の方を向いたと思ったら、キョロキョロを辺りを見渡して、人がいないことを確認してから改めて、チュッと唇へのキスが来る。
「沙織、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
「私は何もしてないよ」
「梨紗が喜んでくれたなら、私は嬉しいから」
もう、何なのこの人。こんな事言われたら誰だって落ちちゃうよ。
先に進みたいとか、身体の関係とか考えていた自分が恥ずかしい。私にとって大切なのは沙織自身で、これからもきっと、もっと好きになる。そんな予感しかない。
二人の顔が赤く染まったのは、たぶん夕陽のせいだけじゃない。
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