28人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
嘘でしょ、こんな漫画みたいな展開あり?
「子供みたいな顔しちゃって」
私はベッドでスヤスヤ眠る恋人の頬をつまんでみたが、起きる気配は全くなかった。
今日こそは色っぽい展開にならないかと、用意した酎ハイを半分飲んだだけでコロっと眠ってしまうなんてーー
恋人の沙織との出会いは入社式だった。女性が少ないこの会社で同期入社の私たちは、部署は違うけれど研修や同期会等で会うたびに仲良くなって、自然と二人で行動することが多くなった。
退社後に食事に行ったり、休日にショッピングへ出掛けたり。
沙織は、見た目はショートカットで中性的なのに、実はかなり女性的でさりげない気遣いが出来る人で、でもどこか天然っぽく抜けていて、私はいつからか、そんな彼女に恋をしていた。
入社して6ヶ月、同期会の帰りに沙織は家へやってきた。これはいつもの事だ。ショッピングの後も映画の後も沙織はいつも私を送ってくれる。そして私の家でお茶を飲んで帰っていく。
いつものようにお茶を飲んで、会社の事や今日久しぶりに会った同期の話をしていたのだが。
「女子が少ないってのもあるけど、うちらずっと一緒にいるよね」
「そうだね」
「飽きない?」
「飽きる? なんで、私はずっと一緒にいたいよ」
そんな言葉を聞いてしまったから。
「なら、付き合っちゃう?」
軽い感じだが、本音を漏らしてしまった。
「……うん」
一瞬の間の後、沙織が頷いた。
「え、いいの?」
「いいよ、私、梨紗のこと好きだから」
あっさりと、私たちは付き合う事になったのだ。
付き合う事になったと言っても、それ程大きく生活が変わるわけではない。
でもーー
平日は仕事中たまにすれ違う時に視線を絡ませてみたり、遠くから姿を眺めて「あれが私の彼女かぁ」と見惚れてみたり。え、なに、テキパキ仕事こなしてて出来る女じゃん、カッコいい。【仕事しろ】
週末はデートという名に変わったお出掛け。相変わらず優しい沙織は、今週封切りになった映画の情報収集やチケットの発券からポップコーンの買い出しまで全部やってくれる。
「どうしたの?」
座席に座って私の視線に気付いた沙織が不思議がる。
「私の彼女、優しいなって見てた」
そう言うと一瞬で真っ赤になる沙織。【可愛い】
付き合うようになって変わったことが1つある、キスだ。
沙織はキス魔と言っていいんじゃないだろうか、最初こそ「キスしていい?」って聞いてくれたけど、今ではもう、ところ構わずチュッチュとキスしてくるのだから。
ただし、軽いキスのみでそれ以上の事は一切ない。沙織はそれで満足しているようだから、まぁそれでもいいのかな。そんな関係性もあるのかな?
目を見て「好き」と言われチュッとされれば、私も心が満たされるのだから。
それでも、そんな状態がかれこれ2年、2年だよ?
私も人並みに性欲はあるわけで、身体も満たして欲しいと思っても、おかしくないよね?
「ねぇ、そう思わない?」
飲めないとわかっていたお酒を、少しだけ飲ませてみたら眠ってしまった沙織の寝顔に語りかけた。
「……んん」
「沙織、起きた?」
「あれ、寝ちゃってた……ごめん」
「大丈夫、30分くらいだし。なんなら今日は泊まってもいいよ」
「いや、そんな迷惑かけられないから、帰るよ」
迷惑……なんかじゃないんだけどなぁ。
「そっか」
「またね」
私の寂しさとは正反対の、清々しいほどの笑顔で沙織はサヨナラのチューをして帰って行った。
最初のコメントを投稿しよう!