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――という新鮮な感慨を抱いた頃が恵流にもありました。
「そうだね。駄目だよね。分かってる。次もこのままで行くよ」
「え、あれ、出られたと思ったら、あれ? なにその物分かりの良さと突然の事務的な雰囲気!?」
「要点を掻い摘んで話すね。時間がないから私語厳禁で」
「あ、はい」
右も左も分からない現状に加え、恵流の有無を言わさぬ迫力もあって、まともな判断能力を奪われた菖蒲は大人しく従う以外の選択肢がなかった。
「もう察してると思うけど、この結末を迎えるのはこれで二回目なんだ」
「別に察してなかったけど、そうなんだ……」
恵流はこの周回で菖蒲が察してないことを学習した。次回はもっと言葉を短縮できるだろう。
「だから僕は菖蒲がこの場に現れた現象についても説明できるし、そこから君が為すべきことについての指針を提示できる」
「おお!」
「まずは前者についてだけど、僕の内側に避難していた菖蒲は『狐化かし』の応用で、ここに剣を――身体を作り出して、記憶を付与することで外に出てこられたんだ」
「そんなバカな! そんなことが出来たらファンタジーだよ!」
「僕の内側で外側の出来事を正確に把握していたらしい自分の事情を棚に上げないでくれる?」
「……それはそうかも」
「……後学の為に聞いておきたいんだけど、菖蒲に余計な口を叩かせない為にはどうするのが最適なのかな」
「……無理やり口を抑えるとか」
「僕の経験則だと、抑えさせてくれないと思うんだよね」
「……ごめん。これから気を付ける」
このあたりの手順の簡略化も必要だなと恵流は思った。
「君が願望を叶える為に為すべきことは大きく分けて二つ。さっきとは逆の手順で雨音さんの内側に入り込み、そこから”世界の中枢”に保存されているであろう元のデータに避難すること。そして、初期化処理に割り込んで、自分の身体を自身の手で再構成すること。ここまではいい?」
「正直、全然ピンとは来てないけど……進めて」
同じ歩幅で並んで歩きながら答えを解き明かした前回とは異なり、答えだけを受け渡されている今回では菖蒲の理解度に差が生じるのは致し方のない事だった。
一度は成功させている実績がある。この最短の段取りで”記憶の引継ぎ”が失敗した場合は、それもまた学習になる。次回はもう少し時間を取って詳細に踏み込めばいい。
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