ROBOT

8/9
前へ
/9ページ
次へ
「……はい。あの、私なんかで良ければ。どうぞよろしくお願いします」  静かにそう答えた恵に、理久の声が喜びの色を帯びたのが伝わって来る。 『恵ちゃん! えっと、明日会える? 俺の家に来ないか? ああ、いきなりは嫌かな?』 「いいえ。伺います」  もう迷いなどはない。この人が恵の特別な人になるのだから。 『じゃあ明日。いつもの待ち合わせ場所で。食事してからうちに来てよ』 「はい、わかりました」  通話を終えて、スマートフォンを持ったまま目が泳いでしまう。まるで夢の中にいるかのようで落ち着かない。  明日、いや今日から恵の恋人になった彼。  あんな素敵な人が、何もできない恵を選んでくれるなんて夢のようだ。 「ねえ、夢じゃないわよね? 本当にこれで良かったのかな。……理久さんは、私、で──」 【モチロンデス(もちろんです)】 【コレハゲンジツデス(これは現実です)】 【スベテウマクイクデショウ(すべて上手く行くでしょう)】  無意識に話し掛けた恵に、ロボットは感情の籠もらない「声」で返して来た。  これは、現実。  才能と自信に溢れた彼と共に過ごす時間を重ねれば、恵も少しは自信が持てるようになるかもしれない。なんでも無条件に頷くだけの人生から、一歩踏み出せたらどんなにいいだろう。  そう、明日からは今までとは違う生活が待っている。幸せが約束されたようなものだ。  恵の目には欠点など一つも見当たらない理久に選ばれたことで、本当に「素敵な人間」に近づける気がした。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加