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「……はい。あの、私なんかで良ければ。どうぞよろしくお願いします」
静かにそう答えた恵に、理久の声が喜びの色を帯びたのが伝わって来る。
『恵ちゃん! えっと、明日会える? 俺の家に来ないか? ああ、いきなりは嫌かな?』
「いいえ。伺います」
もう迷いなどはない。この人が恵の特別な人になるのだから。
『じゃあ明日。いつもの待ち合わせ場所で。食事してからうちに来てよ』
「はい、わかりました」
通話を終えて、スマートフォンを持ったまま目が泳いでしまう。まるで夢の中にいるかのようで落ち着かない。
明日、いや今日から恵の恋人になった彼。
あんな素敵な人が、何もできない恵を選んでくれるなんて夢のようだ。
「ねえ、夢じゃないわよね? 本当にこれで良かったのかな。……理久さんは、私、で──」
【モチロンデス】
【コレハゲンジツデス】
【スベテウマクイクデショウ】
無意識に話し掛けた恵に、ロボットは感情の籠もらない「声」で返して来た。
これは、現実。
才能と自信に溢れた彼と共に過ごす時間を重ねれば、恵も少しは自信が持てるようになるかもしれない。なんでも無条件に頷くだけの人生から、一歩踏み出せたらどんなにいいだろう。
そう、明日からは今までとは違う生活が待っている。幸せが約束されたようなものだ。
恵の目には欠点など一つも見当たらない理久に選ばれたことで、本当に「素敵な人間」に近づける気がした。
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