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オートワークシステム
「たばこ、モルメンライト二つ」
その客の言葉にタバコを吸わない男、相坂は戸惑った。
「すいません、番号でお願いできませんか?」
「だからモルメンライトだって」
おまけに客は日本語が通じないらしい。隣のレジに居た男、アルバイトの先輩、伊島がサッと来て棚からタバコを取り出す。
「伊島さんすみません、お客様お待たせ致しました」
客はぶっきらぼうに金をレジへと置いた。
「伊島さん、すみませんでした」
相坂が謝ると、伊島は軽く笑って返事をする。
「仕方ないよ、タバコ吸わないんじゃ分からないでしょ?」
コンビニでアルバイトを始めて相坂は分かった事があった。
世の中には店員を人間だと思わない奴と、客は神様だと思い込んでいる奴が居る。
接客以外の仕事も大変なのに、客の対応は更に大変だ。店長が理不尽な要求で怒鳴られる所も見た。
仕事を辞めようかと思った事もあったが、先輩の伊島や店長から、とある日まで待って欲しいと言われたのだ。
いよいよ明日、その時が来る。テレビやネットのニュースで散々取り上げられている『オートワークシステム』の導入日だ。
「さーて、大変な仕事をするのも今日が最後か」
仕事が終わり、バックヤードで伊島は独り言を言った。
「伊島さん『オートワークシステム』って正直どうなんですか?」
相坂の言葉に伊島は答える。
「先行導入された都内じゃスゲー人気みたいよ。店員からも客からも」
オートワークシステム。素人だろうがAIの力で、装着すると99.9パーセント以上ほぼミスをしないベテラン店員になるらしい。
小売業や接客業は、クレーマーと、深刻な人手不足に悩まされていた。
下手に出る接客によって、客を調子に乗らせた業界にも非はあるが、今やSNSやネット記事でのまとめ等で噂が広がり、それによって人が定着しない、人が来ない問題がある。
それを解決するのがオートワークシステムだ。
「まぁ、明日を楽しみに待ってみようやー」
伊島はそう言い残してバックヤードを後にした。
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