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次の日、出勤時間になり、相坂はコンビニへと向かう。
「おはようございます」
働く店員の近くを通る時に軽く挨拶をした。
「おはようございます」
笑顔で挨拶が返ってくるが、そのまま疑問も持たずに、相坂はバックヤードへと入っていく。
「おはようございまーす」
パソコンに向かい、作業をする店長に挨拶をする。いつもと違うのは、頭にマイク付きヘッドセットを着けている事だ。
「おはようございます、相坂さん」
こちらを向き、満面の笑みで挨拶を返す店長に相坂はギョッとした。いつもは少し無愛想に「おはよう」と返すだけなのにと。
「相坂さんがオートワークシステムを使用するのは今日が初めてですね」
「え、えぇ、はい」
そう返事をすると、店長は立ち上がり、複数あるヘッドセットの一つを手に取った。
「ご説明は必要ですか?」
「えっ、えーっと、頭に着けるだけで良いんですよね?」
「はい、その通りです」
笑顔を崩さない店長からヘッドセットを受け取る相坂。恐る恐るそれを頭に着けてみた。
「休憩時間となりました。15分間休憩を取って下さい」
次の瞬間、そんな声が聞こえて相坂はハッとする。今、休憩時間と言ったのかと。
だが、おかしい。自分はついさっき出勤したばかりなのに。
時計を見ると確かに時間は経っていた。
そこで思い出す。確かオートワークシステムの使用中は、記憶が残らないと。
何でも従業員のストレス緩和と、顧客のプライバシーを守るためらしい。
15分という時間の間、相坂は現実感が無いまま椅子に座り、ソワソワとしていた。
「就業開始1分前となりました」
ヘッドセットからは、また声が聞こえる。
「お疲れ様でした。本日の業務を終了致します」
声が聞こえて相坂はまたもハッとする。隣には伊島が居た。
「おっ、相坂くん。お疲れ! いやー凄いな、オートワークシステムは!」
これは現実なのか夢を見ているのか、相坂はしばらく呆然とする。
「大丈夫かー? 相坂くん。もう仕事終わったよー」
「あっ、はい」
伊島はヘッドセットを取り外して台座に置く。それに習って相坂も同じ様にした。
「いや、マジで凄いなオートワークシステム! かったりぃバイトもあっという間に終わっちまうんだもんな」
店長が居ないので伊島は心に思ったことをそのまま言う。
「本当に、働いていたんですかね」
相坂は心配そうに言うと、伊島は笑った。
「大丈夫、大丈夫。バッチリいつも以上に働いていたよ。多分だけどね」
相坂は帰り際に店内の様子を見ることにした。今は夜勤者の時間帯だ。
「いらっしゃいませー!」
思わず目を疑った。いつもやる気のない夜勤者が笑顔で、ハキハキと元気よく挨拶をしている。
「お疲れ様でした……」
相坂が小さく言うと、挨拶が返ってきた。
「お疲れ様でしたー!」
不気味な体験をした相坂は、自転車に跨り、家へと帰っていく。
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