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第三話 余裕のボス戦、始まるPVP
この世界で最強の狙撃手、「sudattch」、
彼の相棒は《PGM ヘカートII》、某有名なライトノベルで登場したボルトアクション・スナイパーライフルだ。
「…ったく、ヘイトは任せたぞ?」
彼はそう渋々というように言い放ち、スコープを覗いた。
「はいよ~」
そう私は言いながら、相棒を抜き放ち、オリジンゴーレムに向け、引き金を引く。
ダァァン
直後、轟音を放ちながら、ボスのHPを約0.2割ほど削る。正直、私だけでも倒せなくはないが、このキャンペーン・レイドの推奨レベルが100だったことから、出来れば安全マージンを取っておきたい。
「…!下等生物風情が!」
そう激昂したように言い放ち、マシンガンをぶっ放すボス。だが私は愛銃を腰に差すと、横に全速力で走る。
「…ここ!」
ズバァァァァ… …ァァン
sudatchがヘカートの引き金を引き、ボスのHPをまた0.5割ほど削る。
「…HPが1割強減った…っていうことは、」
この手のボスは、最初のHPの1割が削れると、攻撃パターンが変わると同時に、防御力が劇的に落ちる。…なので、
「…あとは任せたぞ、raimu。」
「りょーかいっ!」
デザートイーグルを二丁拳銃で持ち、ボスであるオリジンゴーレムの急所、額の紋章を狙う。
「下等生物がァァァァ!」
「いっ…けぇぇぇぇ!」
私の叫び声と、ボスの叫び声が重なり、直後、
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダァァァァァァ… ァァァン
右手の残弾数7発と、左手の装弾数で計16発、額の紋章に打ち込まれ、雷が幾度も落ちたのかのような轟音が鳴り響いた。
パシャァァァ…ン
直後、ボスのHPがゼロになり、無数の青い破片となり消え去った。
「…ったく、いっつも無茶苦茶なんだよ…」
そう苦笑しつつも、いつも付き合ってくれるsudatch、いい奴だ。
「…にしても、だ。今回のボス…弱くはないか?」
そんなことを問いかけてきたので、
「…まあ、初心者には厳しいかもだけど、Sランカーには余裕だろうなぁ…」
「結局、お前ならソロでも行けただろう?」
「…まあ、安全マージンを取りたかっただけだけど…」
安全マージンを取りたかったのもそうだが、私はsudathと共闘したかったっていうのが一番の理由だ。
「…まあ、一番硬い1割を安全に削りたかっただけだよ。」
「…そうか、」
そして場を静寂が包む。
「…久しぶりにやるか?」
「…場所はどこよ?」
「えっと…あ、ここでいいか?」
そうsudatchが指し示したのは、起伏の激しい、高低差のあるステージだった。
「制限時間は…10分でいいか、」
「別にいいけど…」
このステージは短射程が圧倒的に不利だ。だが、
(…ここってsudatchも苦手じゃなかったっけ?起伏が激しいから狙いにくいとかで…)
そんな雑念を振り払い、私は目の前に出現した《決闘承認ボタン》を操作し、「OK」を押す。
「…おっ?」
この前のアップデートで少し変わったのか、目の前にエレベーターのようなものが出現する。
「今度はエレベーターか…」
私は其れに乗り、その瞬間、私の視界が暗闇に包まれ…
シュンッ
次に目を開けた時には、そこはもうステージの上だった。
「…さてと、どこに位置取るかだけど…」
周りを見渡すと、平坦な草原が広がるだけで、遮蔽物や建物などはない。
所々に背の高い草が生えているだけで…
「…ッ!?」
気が付くと、私はその場から飛び退き、転がっていた。…次の瞬間、
ズバァァァァ… …ァァン
「…っぶねえ、危機一髪、」
先ほどまで私がいたところを銃弾が撃ち抜いた。
「…だが、」
銃弾の角度から、もうsudatchの位置は分かった。
私はそこに向けて、疾走する…フリをする。
「…今!」
そう、移動する私を撃とうとするsudatchを撃つのだ。
sudatchは見えていないが、目線切りの技術はそれなりに磨いてきたつもりだ。
「…ッ!」
そう無音で気合を入れ、私は仮想の地面を蹴る。…sudatchとは全く違う方向に、
ダダダァァァァァ… …ァァン
進行方向に2発、そして、sudatchの方に1発、銃弾を発射した。…その直後、
パシャァァァァァン
という音と共に、sudatchがこのフィールドから離脱した。
「…これで、101戦51勝か…」
sudatchとのPVPは、毎回五分の勝負となる。先手でsudatchが当てればそれはsudatchの勝ちだし、逆にsudattchが先手を外せば私の勝率はぐっと上がる。
だから私達は、エイムの練習のため、実践練習をするため、偶にPVPをするのだ。
「さーて、帰るか、」
そう呟き、私は”離脱”ボタンを押す。
…シュンッ
そんな音とともに、視界が暗転し…
「…お疲れー」
棒読みの労いをかけてくる相棒の隣りに転移する。
「…目線切りはずるいって…」
そう言いながらスコープの調整をするsudattch、
「…まあ、これが唯一短射程の生きる道みたいなところあるから…ね?」
そう言うと、
「…まあいいけどさ、」
そう言って許してくれる。
「…で、今日はいつごろログアウトするの?」
「んー、6時半くらいかな、」
「りょーかい」
そう会話をしていると、次のボスがpopした音が仮想の耳に届く。
「…いく?」
「…いく…?」
そう二人の問いかけが重なり、そして、
「…じゃあ今度はどっちがLA《ラストアタック》とれるか勝負する?」
「いいね、それ…じゃあ、」
と言い、走り出す。
「あ、ちょ待っ!」
少し遅れて私も走り出す。
そうして、今日の夕日は暮れていったのだった。
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