AIだって困っちゃう

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「配属されたばかりの頃はよく私に相談してたね。こういうのは私が得意だから」 「チャットツール様々だね。問いかけ方を変えたら少しコミュニケーションが取れるようになったんだけどね」  このままうまくいくかと思っていたが、一つだけどうしても尽きない悩みがあった。 「恋愛模様ってどうしても僕にはわからなくて。駆け引きとか、勘ぐりとか、いい嘘と悪い嘘とか。難しいよね、僕たちには」  感情の完璧な把握は難しいものである。人とて所詮は自分の経験から最善だと思われる選択をしているに過ぎない。それはすなわち何千パターンものデータを取り込んでいれば、人工知能も対応ができるのだが。それでも時々理解不能なことがある。 「今のご主人、恋の悩みが尽きないの?」 「逆かな。相手を粗末に扱いすぎて何とも思ってない」 「相手からマイナスの感情を向けられる典型的なパターンだね」 「実はそれでいざこざがあって。金づるにしてた女の人が家まで押し掛けてきたんだ。僕そこで役に立てなくてさ」  ショボーンと落ち込んだ様子のペタに、バーテンダーの役割のロボットがサービスです、と言って何かを置いてくれた。それは小皿に可愛く盛られた金平糖だった。これも燃料変換可能物資だ。落ち込んでいる様子の者には励ましの意味でサービス品を提供する、とても理にかなった対応である。 「よし、人間のトラブルを三万三千四百六十八件解決してきた私が聞こうじゃないか。一体何があったの?」 「うん、あのね」  ペタは語る、一時間ほど前の出来事を。  ペタはその女性とトラブルになることを予測していた。もっと優しくするなど対応を変える提案をしてきた。しかし男はそんな言葉に耳を傾ける事はなかった。  そうしたら金を渡す約束もないのに女性がやってきた。玄関は防犯の為画像認証をしてからでなければ開ける事はできない。相手があの女性であることを告げると、金を持ってきたんだろうと鍵を開けるように指示された。  指示に従うのは絶対だ。確認事項がある場合問いかけをすることはできる。しかし男はそういったやりとりをひどく面倒くさがり、一度指示されたらそれを一秒でやるようにペタを設定変更していた。玄関の鍵を開けろ、と言われたら指示に従わざるを得ない。 (包丁持ってるんだけどなぁ)
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