AIだって困っちゃう

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 明らかに異常なことではあるが、鍵はすぐに開けなければいけない。鍵を開けて扉の前で待つ。そしてものすごい形相をした女性にマニュアル通り尋ねた。 「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、危険物の持ち込み――」  そこまで言うと女性はペタを無視して中に走っていく。 「お客様、お手数ですが玄関で靴を脱いでいただけますか」  慌てて追いかける。するとリビングから凄まじい悲鳴が響いた。 「ぎゃああ!?」  どうやら男は後ろを向いていたらしく、肩をざっくりと切られたようだ。本当は首を狙っていたのだろうなというのは場所的にもわかる。 「許さないから、絶対に許さないんだから! 私には優しい言葉なんて言ってくれたことないのに! 昨日一緒に歩いてた女にはあんなにベタベタしてぇ!!」  叫びながら再び包丁を振りかざした。それは見事に男の顔面を切り裂く。片目に当たったらしく、顔を押さえながら男は床に倒れてしまった。  傷害事件が発生している。そう認識したペタは急いで警察に通報しようとした。これはすべてのAIに盛り込まれている緊急マニュアルだ。人が危害を加えられていたらまず通報、そして救助活動。自分の性能では人ひとりをどうにかできるパワーがないので、説得か近所に助けを求めに直接行くしかない。しかし。 「いてええ! クソロボット、早くなんとかしろ! 見えねえよ!」  片目を切りつけられ、もう片方の目には血が入ってしまったらしい。しかも床を転げ回るように暴れている。自分で女を取り押さえるということはできないようだ。 「右目負傷、左目はすすげば見えるようになります。今水を汲んできます」 「馬鹿野郎! どうだっていいんだよそんなこと!」  先程の内容からでは目が見えないから目が見える措置をしろ、というふうに捉えた。そういう意味ではないと言われて即座に別の可能性を模索する。だが、この男との会話ではこんな事は本当に何十回も繰り返してきた。そっちじゃねえ、何言ってんだお前、なんでそういう風に捉えるんだよ馬鹿か。またこのパターンだ。こういう時はこうですか、と提案せず指示を仰ぐことにしている。 「修正します。しかし具体的な指示をいただけますか、今必要としている事はなんですか?」  その問いかけに答えることができない。女が馬乗りになって何度も何度も男を突き刺しているからだ。 「こいつをなんとかしろよぉ! ぎゃああ! いてえよお!」
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