はじめまして、サポート妖精のサポヨさん

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 プレイヤーは最初の数日で、すっかり来なくなった。  できたばかりの初心者ダンジョン、報酬もしょぼいのはわかっているし、割に合わないというのだろう。  いくら罠もなく、敵もほとんどないと判明しても、僕だってこんなダンジョンに入りたくはない。  しかしながらだ。 「サポヨさん」 「何です、小森さん」 「僕、AIとしてのお仕事、全然してない気がするんですけど」 「あー、まぁ……」  そもそもダンジョンマスターがAIとしてプレイヤーと対峙するのは、プレイヤーが最奥まで攻めてきてからのラストバトルだ。  そうなれば低レベルダンジョンマスターの僕は、わりと簡単に殺される。  死ねば職を失うので、プレイヤーが来ないのは望ましい。  つまり、AIとしてのお仕事をしていないのは、望ましいことなんだけど。 「これでお金貰ってもいいんですかね」 「うーん、まぁ実際、小森さんは契約通りにお仕事してくれただけですしね」  それはそうなんだけど。 「私もここのサポート担当の業務は、グータラできて助かりますし」  そう言ってもらえるなら、良いことにした。  ダンジョンは放置すると成長するということで、ほとんどお客の来ない僕のダンジョンでも、何ヶ月も経てば改装増築用のポイントが溜まってくる。  階層を増やしたり、環境を火山帯や雪山なんかにするのは高コストだけど、ダンジョンマスター用の娯楽施設や嗜好品はそれなり程度のポイントで購入できる。  週に数回やってくるサポヨさんは、特にダメージもないのに医療ポッドを利用したり(感覚が癖になるらしい)、運営が版権を持っている旧式のアーケードゲームで遊んだり。  端数ポイントで買ったお菓子やお酒を献上すると喜んでくれた。 「ゲームで遊んでいたらお給料が出るなんて、最高のお仕事ですねぇ」  ニコニコしながら、スナック菓子の油でギトギトの手でレトロなSTG(シューティング)をプレイするサポヨさんは、たぶん、僕の業務内容については忘れている気がする。  このお仕事を長く続けられるよう、僕は数時間走っても行き止まりしかないハズレルートに向け、低価格な罠を仕掛けていく作業に戻った。
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