ようこそ、勇敢なるAI諸君

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ようこそ、勇敢なるAI諸君

「最近、ここのダンジョンもお客さんが増えましたねぇ」 「あ、そうそう。私も気になって、上司に聞いてみたんですけど」  僕がダンジョンマスターのバイトを始めて、早3年の月日が経った。  正直、まさかここまで続くとは思ってなかった。  5年続いたら無期雇用になれるんだっけ?  ダンジョンを拡張し、娯楽設備も整え、余ったポイントでダンジョンマスターである僕自身の能力も強化した。  とにかくプレイヤーに人気のないダンジョンを追求することで、長寿ダンジョンを目指していた我が根城にも、どうも最近は侵入者が増えて来たように思う。 「実はこのゲーム、AIプレイヤーってのを導入したらしいですよ?」  運営会社の社員にして、ダンジョンのサポート妖精(週2回)であるサポヨさんは、備え付けのキッチンでパンケーキを焼きながら、そんなことを言った。 「AIプレイヤー、ですか?」  人力NPCである僕の対極のような存在に、小さな胸騒ぎを覚える。 「ですです。プレイヤーが少ない時間帯やエリアに投入して、プレイヤー数の水増しをするとか何とか」 「何でまたそんなことを?」 「実験? とか言ってましたけど、まぁMMOですし、過疎ゲーよりは人が多い方が楽しいんじゃないですかね」 「なるほど?」  しかし、AIプレイヤーとは。  生身のプレイヤーがほぼほぼ存在しないこのダンジョン、AIプレイヤーが投入されるのも不思議はない。  AIならば、生身の人間が嫌がる不快さも、面倒臭さも、気にせずダンジョン攻略ができるわけだ。 「AIが苦手な罠とか仕掛けた方が良いんでしょうか」 「最近のAIは頭良くなって来ましたからねぇ。ラーメンも箸で食べるようになりましたし」 「横断歩道や信号機も見分けられるんですよね」 「うーん、倫理コードに引っ掛かる謎解きを入れるとか……」  倫理コード関連は使えそうな気がするな。  悪意ある倫理コードハックに対抗するため、現代のAIは仮定や冗談の中でも制約に反する言動は取れないからね。 「あっ、でもちょっと待ってくださいよ?  ……ほら、性的だったり政治的だったりな単語や内容は謎解きに使えません、みたいなこと規約に書いてました!」 「おお、久々にサポート妖精らしいことを……!」 「ふふーん! 自分でも久々の自覚はあります!」  AI対策も一筋縄ではいかないらしい。  格安トラップ〈躓きやすいでっぱり〉で体勢を崩すAIプレイヤーを管理モニターで眺めつつ、対AIプレイヤーに特化した新階層デザインを考え始めた。
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