ようこそ、勇敢なるAI諸君

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 余剰ポイントによる地道な自己強化のお陰で、どうにか僕はAIプレイヤー達を撃退した。  今回は相手にとっては初見の中ボスだし、3人パーティという比較的少人数だったのもある。 「お疲れ様です、小森さん」  サポヨさんが自分用のビーズクッションからパタパタと飛んできて、僕の口にポップコーンを放り込む。 「お疲れ様です……」 「いやぁ、激戦でしたねぇ」  ボス部屋の様子はモニターで見ることができるので、サポヨさんもコーラとポップコーンを手に応援してくれていたらしい。 「初戦闘、初勝利おめでとうございます。ほんと勝てて良かったです!」 「このダンジョンのサポート業務? を楽しんでいただけて、何よりです」 「それもありますけど、小森さんとも長い付き合いですからね」  社交辞令でも、ありがたいことだ。  サポヨさんの中の人は最近、後輩の指導も任されたとかで、色々とストレスも溜まっているらしい。 「後輩ちゃん、私のこと完全に舐めてるんですよね」 「あー……まぁそういう世代なんですかねぇ」 「先輩からも、もうアンタも先輩になったんだからしっかりしなさいー、って」  僕が普段見る彼女の姿は、業務時間中にVR空間でお菓子やお酒を飲食し、レトロゲームや著作権切れ映画を楽しんでいる所ばかりなので、社会人としての成長具合には何とも言えない。  受付嬢のニャイリアちゃんの時も、どの辺までが演技なのか判らなかったし。 「自分が一番下っ端の時は楽だったなぁ。後輩なんて入ってこなきゃ良かったのに……」  何だかネガティブになっているので、高級和菓子と大吟醸をお供えしておいた。  ちょっと機嫌が良くなった。可愛い。 「ごめんなさい、小森さんに愚痴を聞かせてしまって」 「いえいえ、僕で良ければいくらでも」 「じゃあ! じゃあ、折角なのでありったけ話しますから、聞いてくださいよぉ!」  VRアルコールで酔っ払ったサポヨさんの愚痴は、職場の話に始まり、学生時代の友人の話、実家の家族の話、休日に出掛けたお店の話、天気の話と、極めて多岐に渡った。  そんな愚痴を半分聞き流しながら、僕は今日のAIプレイヤーについて思い返していた。  ダンジョン攻略中も監視モニターで見てはいたけれど、実際に対面すると、その性能には驚かされた。  随分と人間に近い。前情報無しだと、ちょっと違和感を持っても本物のプレイヤーだと思っただろう。  僕の仕事はゲームのNPCだ。  これは、リアルや人間の真似を、AIに任せることが難しかったために生まれた仕事だ。  AIがプレイヤーを演れるようになったなら、もうじき、AIがNPCを演れるようにもなるんだろうな。  後輩なんて入ってこなきゃ良かったのに、とサポヨさんは言った。  そんな愚痴もそろそろ、現実になるのかも知れない。  少なくとも、僕の仕事の後輩なんてのは、きっと入ってこないのだろうなぁ。 <了>
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