4人が本棚に入れています
本棚に追加
余剰ポイントによる地道な自己強化のお陰で、どうにか僕はAIプレイヤー達を撃退した。
今回は相手にとっては初見の中ボスだし、3人パーティという比較的少人数だったのもある。
「お疲れ様です、小森さん」
サポヨさんが自分用のビーズクッションからパタパタと飛んできて、僕の口にポップコーンを放り込む。
「お疲れ様です……」
「いやぁ、激戦でしたねぇ」
ボス部屋の様子はモニターで見ることができるので、サポヨさんもコーラとポップコーンを手に応援してくれていたらしい。
「初戦闘、初勝利おめでとうございます。ほんと勝てて良かったです!」
「このダンジョンのサポート業務? を楽しんでいただけて、何よりです」
「それもありますけど、小森さんとも長い付き合いですからね」
社交辞令でも、ありがたいことだ。
サポヨさんの中の人は最近、後輩の指導も任されたとかで、色々とストレスも溜まっているらしい。
「後輩ちゃん、私のこと完全に舐めてるんですよね」
「あー……まぁそういう世代なんですかねぇ」
「先輩からも、もうアンタも先輩になったんだからしっかりしなさいー、って」
僕が普段見る彼女の姿は、業務時間中にVR空間でお菓子やお酒を飲食し、レトロゲームや著作権切れ映画を楽しんでいる所ばかりなので、社会人としての成長具合には何とも言えない。
受付嬢のニャイリアちゃんの時も、どの辺までが演技なのか判らなかったし。
「自分が一番下っ端の時は楽だったなぁ。後輩なんて入ってこなきゃ良かったのに……」
何だかネガティブになっているので、高級和菓子と大吟醸をお供えしておいた。
ちょっと機嫌が良くなった。可愛い。
「ごめんなさい、小森さんに愚痴を聞かせてしまって」
「いえいえ、僕で良ければいくらでも」
「じゃあ! じゃあ、折角なのでありったけ話しますから、聞いてくださいよぉ!」
VRアルコールで酔っ払ったサポヨさんの愚痴は、職場の話に始まり、学生時代の友人の話、実家の家族の話、休日に出掛けたお店の話、天気の話と、極めて多岐に渡った。
そんな愚痴を半分聞き流しながら、僕は今日のAIプレイヤーについて思い返していた。
ダンジョン攻略中も監視モニターで見てはいたけれど、実際に対面すると、その性能には驚かされた。
随分と人間に近い。前情報無しだと、ちょっと違和感を持っても本物のプレイヤーだと思っただろう。
僕の仕事はゲームのNPCだ。
これは、リアルや人間の真似を、AIに任せることが難しかったために生まれた仕事だ。
AIがプレイヤーを演れるようになったなら、もうじき、AIがNPCを演れるようにもなるんだろうな。
後輩なんて入ってこなきゃ良かったのに、とサポヨさんは言った。
そんな愚痴もそろそろ、現実になるのかも知れない。
少なくとも、僕の仕事の後輩なんてのは、きっと入ってこないのだろうなぁ。
<了>
最初のコメントを投稿しよう!