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「俺さ、気付いたことがあるんだよね」
ニノが唐突に話を切り出した。その真剣な面持ちに、何か重大な話なのではないかと誰もが固唾を呑むだろう。
ただ、この場にいる僕とマエはそうはならなかった。大した期待もせず話半分で聞いていた。いつものことだからだ。
「川ってさ、この世の真理なんじゃないか?」
「その心は?」
義務的な優しさで聞く。
「川は基本的に上流は綺麗で下流に行けば行くほど水が汚くなる。いろんなモノが混ざり合うからだ。だから質も味も落ちる」
「それで?」
「分からないのか?上流であれば水はおいしく、下流になるとまずい。人間だってそうじゃないか。上流階級の人間ほどうまい汁が啜れ、俺たちのような下流の人間は汚れ切った残りモノだ」
そうニノは言った。
教室の隅に追いやられ、三人話し込む現状がまさにそうだった。
「……なんか悲しい話だな」
学校では上流や下流というよりカーストだが、僕ら三人は紛れもなく下の方だった。
「山崎の奴、彼女ができたらしいぞ。噂によればあのマドンナだとか」
「まあ、お似合いだよ。まさか狙ってたの?」
「ばっ、違うわ!」
クラスのイケメンで人気者の彼は学年のマドンナと付き合い、等の僕らと言えば見向きもされない。上流にいる人気者な彼、または彼女が下流にいるような地味な子に好意を寄せるなど漫画やアニメだけの話だ。
「確かにニノの気付きは的を射てるかもしれない」
「だろ?」
上流だ下流だなどと話している僕らは汚れている。だから下流にいるのか、それとも下流にいるからなのか。鶏が先か、卵が先か。そう誰かは言った。
「それで?その結論は?」
「ふむ。汚れ切った下流の川を綺麗にするのはおそらく不可能だ。上からの汚れが流れてきているのだ、下の人間がどうこうできるモノじゃない」
「つまり……?」
「俺たちは永遠に上には上がれないってことだ」
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