42人が本棚に入れています
本棚に追加
ミナトとの時間
「お帰りなさいませ、旦那様」
「……うん」
ミナトの前をすり抜け、寝室に入った僕はベッドに寝転がる。
キッチンから、夕食を作っている物音がする。
床にはゴミ一つないし、シーツはシワひとつなくいい香りがする。ホテルみたいに気持ちのいい空間だ。
僕だってこれくらいできる。だけど毎日完璧に、と言われたら無理だ。アンドロイドは疲れを知らない。「今日は気分じゃないからやめとこう」と考えることもない。
コンコン、とノックの音がした。
「夕食ができました。温かいうちにどうぞ」
「愛莉は?」
「残業なので、先に召し上がっていてほしいそうです」
「……」
「今夜はカレーですよ」
今朝のことも、さっきの冷たい対応も気にすることない、優しい声色。
「いらない」とも言えずドアを開けると、微笑むミナトの姿があった。席についてカレーを食べる。
おいしい。悔しい。
「お前は食べないの」
「俺の動力源は電気ですので。後ほど充電いたします」
「アンドロイドだもんな」
「ええ」
意地悪な言葉も受け流される。圧倒的に「正しい」存在。カレーもおいしくて手が止まらない。
ミナトはキッチンの片づけを始めた。
しばらく静かだったけど、ふと、目があった。
「旦那様」
「なに?」
「今朝の件ですが、俺と張り合わなくていいんですよ。
家のことは全て任せてください。それが仕事ですから」
「そう言われても……正直、お前とは付き合いづらいよ」
思わず口から出てしまった。
最初のコメントを投稿しよう!