脅迫

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脅迫

「誰が盗んだんだろな、あの薬」 「あなた専用の薬なんでしょ? 嫌がらせかしらね。心当たりは?」 「ありすぎるなぁ……現役時代は無茶したし」  俺達は今、小型飛行機内にいる。操縦席にはなんとか座ることができた。  ナタリーは急にインカムで話し出した。 「トム、右の通路から侵入したら赤いボタンを押すのよ」 「アンジェリーナ、総督はドMだから、冷たく接してね」 「コリン、大臣はたけのこの町派だから。間違えないでね。下手したら戦争よ」と次々指示を出している。     忙しそうだな、と思った途端にスマホが鳴った。  非通知だ。ナタリーに目配せし、自動操縦に切り替える。 「ハロー?」 「ごきげんよう元008」 「誰だ?」  返事はないまま、機械的な音声は一方的に話し続ける。 「君の薬は預かった。返してほしくば、金曜20時までにMFI総本部のサーバールームにあるA国顧客リストのデータを手に入れろ。  期日を過ぎれば薬は破棄する。  なお、このメッセージは5秒後に自動的に消滅する」  そこで唐突に通話は切れた。 「どうしたのフレッド」 「実はかくかくしかじかで……」  話しながら、嫌な予感がしていた。相手は俺が元スパイだと知っている。  しかも今日は日曜。あまり日もない。 「MFI……地中海の孤島にある、武器の開発・販売を行う民間会社ね。セキュリティが厳しいわよ」 「でもハニーにかかれば"a piece of cake(朝飯前)"だろ?」  頼む前に、妻は首を振った。 「悪いけど任務があるの。少しなら手を貸すから連絡して」  そう言って脱出用パラシュートを装着し始めた。 「仲間との合流地点よ。後ろのハッチを開けて」  俺は肩をすくめた。 「No.1は忙しいな。わかったよ」 「健闘を祈るわ。じゃあ!」  言うなり、妻は飛び降りた。開いたパラシュートを眼下に、俺はため息をついた。  数時間後。  俺は飛行場から港町へ向かっていた。 「まずは腹ごしらえだな」
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