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ぽっちゃりスパイがゆく
大衆食堂で俺は栄養を補給した。ピッツァ、パスタ、トリュフ香るリゾット、そしてビール、ビール、ビール。
デザートを頼んでからRに電話した。
「なんだ008。薬は飲んだのか?」
「実はかくかくしかじかなんだが……R、あの薬ってまた作れるんだろ?」
そう、別に脅迫に従う必要はない。ナタリーの手前、ああ言ったものの、もう1回もらえればいいだけのこと。
「無理だ」
「だよな、すぐ作れ……え?」
「無理だよ。レアな原料使ってるって言ったろ。来年まで無理だ」
「Oh, My God!」
「早く飲めば良かったのに」
「夕食後飲むつもりが寝落ちしてたんだ」
Rのうめき声がした。呆れている。
「……脅迫に従うしかない。MFI侵入はなかなか厳しいぞ」
「どう潜入すればいい」
「1万プラスで詳しく調べてやる」
「金とるのぉ?」
「当たり前だ、副業だぞこれ」
渋々了承して俺は通話を切り、デザートを秒で片付けレジに並んだ。
どうしようか。まだ準備が足りない。確か近くに、昔のなじみがいたはずだが……。
「お客さん、お客さんてば!」
「ん?」
気づけば店員が怖い顔をしている。
「このカード使えないよ」
「そんなハズは……」
確かに何度やり直してもエラーが出る。脅迫者のしわざだろうか。後ろの客からの視線も感じる。現金もない。
仕方ない、こういう時は……。
俺は精一杯のキメ顔を作った。
「お嬢さん、俺は先を急ぐんだ。必ず支払うから数日待ってくれないかな」
そしてウィンク。昔ならこれで若い女性はひとたまりもなかった、のに。
「鏡見てから言えよ、おっさん」
うっとりどころか、うんざりした顔をされてしまった。
「店長ー!」
奥から強面の大男がのそり、と出てきた。
ヤバい。
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