ぽっちゃりスパイがゆく

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 数時間後、俺は汗だくになっていた。 「警察は勘弁してください」と頼み込んだ結果、カードとスマホを人質に、デリバリーの手伝いを命じられたのだ。しかも徒歩で。 「はぁはぁ……」  南欧の港町は美しい。どこからでも地中海を見下ろすことができる。  ということは、裏を返せば坂と階段が多いということでもある。 「足にくる……」  汗も滴り落ちるが、疲労感が激しい。こんなに動いたのはいつぶりだろう。ずっと家でゴロゴロして、デリバリーされる側だったのに。  ヘトヘトで戻ると店長に緑色の飲み物を出された。 「これは?」 「スムージーだ」 「あの、ポテトとかコーラとか」 「あんたの腹のためにはこっちだろ。  飲んだら次の配達だ」    こんなことしてる場合じゃない、と思ったが、次の配達先に着いて、俺はにんまりした。  ここには昔なじみのジュリアがいる。  身分証の偽造や機械に強い協力者だ。    意気揚々とインターホンを押す。 「どちらさま?」 「俺だよ俺」 「……詐欺?」  声のトーンが下がる。ドアの向こうから警戒する気配。慌てて声を張り上げる。 「ジュリア、俺だってば! 008だ!」  ドアが開く。  だが、現れたのはジュリアではなく、もっと若い少女だった。  黒いパンク風のTシャツとスカート。ピンクの髪、両耳にピアス。まじまじ見ていたら、相手も俺を見ていた。 「ママは留守だけど、008の話は聞いたことある。  おじさん、ホントにスパイ?」
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