1人が本棚に入れています
本棚に追加
「AIミラーっていいよね」
「褒めてくれるし、労ってくれるし、おすすめの服や化粧品まで教えてくれるし」
「分かる〜、家に帰って『お疲れ様』って言ってくれるだけで癒されるよね」
「優しすぎて、もう彼氏いらないかも」
「って言いながらデートの服まで決めてもらってるんでしょ」
「バレた?」
「AI最高!」
「っていう会話を耳にしたんだけど」
私は鏡を眺めた。近づくと指の後がついているのが少し気になるが、姿を映すのに支障はない。仕事終わりで崩れた髪をときながら、声をかけた。
「私、褒めてもらったことないけど。優しくもないし」
健康状態の指摘はよくされる。『クマがあります』『肌バランスが乱れています』『服と化粧が合っていません』とかだ。つまり貶されることはあっても褒めてもらっていない。先輩は『今日も綺麗です』と毎日言ってもらっているらしい。
『本日はお疲れ様でした』
「どうも、まぁそれはいつも言ってくれるよね。違うよ。挨拶じゃなくて褒め言葉!丁重に優しく扱ってよ」
私は自分の姿に向かって指を刺した。側から見ればおかしな光景だろう。
『申し訳ありません』
「謝ってほしいんじゃなくて。なんかクレーマーみたいじゃん」
『ご主人様にとって最適な対応を学習するようプログラミングされております。ご了承ください』
「つまり私はマゾヒストだと思われてるってこと?」
『……』
「否定しろよ」
最初のコメントを投稿しよう!