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「あーもう、どれがいいの?どうしよう、もう時間が……」
『右手にお持ちの服は今年の流行を捉えております』
「え、本当?」
私は右の服を体に合わせた。少しカジュアルだが、初めてのデートだから、気合いバンバンがバレるよりはいいかもしれない。
「こっちにしようかな」
『ただし背中の部分にシワがあり、袖には黒い汚れがあります』
「うわっダメじゃん」
『左手にお持ちの服は……』
AIが言い淀んだ。私は両手に服を持って鏡を見た。
「左の服は?」
『無難です』
「無難で結構です」
右手に持っていた服を床に放り投げて、ワンピースに袖を通した。少しフェミニンすぎて恥ずかしく、あまり身につけてこなかった。まさか出番が来るとは、ワンピースも思わなかっただろう。
「よし、完璧」
『化粧をお忘れです』
「わ、やばい」
『ご主人様は昨夜、眠りが浅く、肌の艶を失っております。肌が汚いからといってファンデーションを厚塗りにしないようにお気をつけて』
「黙れ」
緊張であまり眠れなかったのだ。自分でも気にしていることをズケズケと話してくる鏡から目を背けた。
『あと5分以内に出発しなければ予定の電車に乗り遅れます』
背けても声は聞こえる。
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