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疲労感が体にのしかかり、一歩も動く気がしない。ソファに寄りかかりたいのは仕事の疲れだけではなかった。
「どうしてあんなこと言っちゃったんだろ」
初めて彼氏と喧嘩をした。今、思うとどうしてあれほど怒ってしまったのかも分からないが、当時は引くことができなかった。
「もう嫌。こんなクズみたいな女、振られるに決まってる」
『未来は誰にも分かりません』
「……分かるよ。すごく怒っちゃったもん」
『未来が分かる人間がいれば、戦争や災害の被害者は減少しているでしょう。確実に未来を予想できる人物は存在しません』
もう傷つきすぎて、鏡に言い返す気力もない。AIには恋愛の機微なんて理解できないのだ。
『ただ一つだけ確実なことはあります』
「……何?」
『恋人との喧嘩を仕事に持ち込まず、一生懸命、自身のやるべきことをこなす貴女はクズではありません』
涙が滲み、クッションに吸い込まれていく。
「仕事中の私を知らないくせに」
『ご主人様の分析は都度行なっております』
つまり頑張っている私を知っていると励ましてくれているのかもしれない。鏡は淡々と続けた。
『自分か悪いと分かっている場合は素直に謝ると関係も改善される可能性があります』
「うん」
スマホを取り出して、彼氏とのトーク画面を開いた。たった6文字で私の未来は変わるだろうか。ドキドキしながら送ったメッセージの返事はすぐに届いた。
『俺の方こそごめん』
1週間後、デートのやり直しが決まった。
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