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点滴や心拍を計測する機械などが体に繋がれた状態のまま、ベッドに乗せられ部屋まで運ばれていく。寝かされたままエレベーターで上まで昇っていくのは不思議な感覚だった。
病室のある階に到着し、個室までゆっくり進んでいく。聞き慣れた声が近くなるにつれ、いつもの生活に引き戻されていった。
ベッドに寝たままの状態では、部屋の中がどうなっているのかはわからなかったが、
「ママが帰ってきたー!」
「ママお帰りー!」
「ねぇねぇ、赤ちゃんはどこ⁈」
とマシンガントークが聞こえたことで、娘たちが部屋にいて大興奮しているのは理解出来た。
あぁ、こんなに早く日常が戻ってきちゃうのね。もっとゆっくりしたかったな……そう思いもしたが、手術を無事に終えたことで、退院後に始まる五人での新たな生活が楽しみになってきていた。
ベッドが部屋の元の位置に戻ると、上がったままの柵の隙間から娘たちが顔を覗かせている。
「ママはもう赤ちゃん見たの⁈」
「うん、だってママのお腹から出てきたんだもん」
「うわぁ、いいなぁ! ねぇねぇ、赤ちゃん可愛かった?」
「可愛かったよ」
「誰に似てる⁈」
「うーん、みんなに少しずつ似てたかも」
「本当? 早く会いたいなぁ」
子どもたちのはしゃぐ姿を見ながらきっと大丈夫、そう思えた。
子どもが三人になって生活は変わるし、自分の負担が増えるのは目に見えている。それでもこんなに赤ちゃんの誕生を喜んでくれる家族がいるんだから、みんなで乗り越えていけるはず。
「今度の赤ちゃんも、私たちと同じ所から出てきたの?」
「お腹の傷のこと? そうだよ、同じところを切って出てきたんだよ」
「みんな一緒で嬉しいなぁ」
智絵里の頬が緩む。みんなこのお腹の中で少しずつ大きくなって、今ではこんなに頼もしいお姉さんになったのだ。
「智絵里、本当にお疲れ様。それに今日まで赤ちゃんを大切に育ててくれてありがとう」
「うん……これからは三人の子育てが始まるから、お互い頑張ろうね」
その時ノックの音がして、一斉に扉の方を振り返る。すると看護師が透明の新生児ベッドを押して部屋に入ってきた。
「篠田さん、おめでとうございます! 赤ちゃん、ママのところに帰って来ましたよー」
ベッドの中ですやすやと眠る赤ちゃんを見て、全員が感嘆の声をあげた。
「可愛いー!」
「小さいねぇ」
「なんかパパにそっくりじゃないか?」
「絶対に違うー!」
看護師は赤ちゃんを抱き上げると、下半身の麻酔のため動けない智絵里の手に、そっと赤ちゃんを抱かせた。
なんて軽いんだろう……赤ちゃんってこうだったっけ。先ほどより肌の色が落ち着き、目を閉じて小さな寝息が聞こえる。
「ママとパパと、咲良お姉ちゃんと芳乃お姉ちゃんだよ。これからよろしくね」
「違うよ、ママ。お腹の中でおしゃべりしてたから、これからもよろしくね、だよ!」
「お姉ちゃんたちがいっぱい一緒に遊んであげるからね!」
智絵里と恭介は顔を見合わせ、微笑み合う。今日は家族五人の始まりの日。更に賑やかになることは間違いないだろう。
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