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その時、ブルーのカーテンの奥を見ていた吉田が目を見開き、智絵里の顔を覗き込む。
「篠田さん、もう少しで産まれますよ」
手術室の中が慌ただしくなり、執刀している医師たちの声の掛け合いも増えていく。
その時だった。部屋の中に赤ちゃんの泣き声が響き渡る。
「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」
ブルーのカーテンの向こう側から姿を現した赤黒い肌の赤ちゃんは、細い手足をピンっと張り、顔を皺くちゃにして、一生懸命大きな声で泣いている。
ずっとお腹の中で動き回って、蹴ったりしゃっくりをして少しずつ大きくなるのを感じてきた。その子が目の前にいる。
あぁ、生きているんだ。息をしている。泣いている。ようやく出会うことが出来たーー智絵里の目からは自然と涙が溢れた。
「ありがとうございます……」
「じゃあ一度赤ちゃんはいろいろな検査があるので、それが終わり次第お部屋までお連れしますね」
「はい、お願いします……」
一瞬だったなーー医師から赤ちゃんを受け取った看護師の背中を、智絵里は残念そうに見送る。
「ではこれから子宮を閉じていきますね」
その言葉は、喜びに浸っていた智絵里の顔を真っ青にさせた。帝王切開は赤ちゃんを取り出した後、お腹を閉じるまでが長いのだ。
早く赤ちゃんに会いたいーーそのためにも頑張らないと。
「はい、よろしくお願いします」
智絵里は大きく息を吐き、気合を入れ直すと、手術室に鳴り響く大好きなロックナンバーを口ずさみ始めた。
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