18人が本棚に入れています
本棚に追加
1
「トム、お前今フリーだよな?紹介したい女いるから今から来て」
電話口の高梨先輩はなかなか横柄な人で、先輩は俺をカートゥーンアニメの猫のキャラの名前で呼ぶ。
今から約一時間前、数ヶ月ぶりに電話がきたと思えば、先輩は一方的に話して、俺の返事も待たずに電話を切った。
場所は言わなかったが、学生時代から利用していたいつもの居酒屋なんだなと、背後から聞こえた音で察しがついた。それは彼女と二度目に会った行きつけの居酒屋だ。
小ぢんまりとした店内は、入り口に立てば席全体が見渡せる。
入店するなり直ぐに「トム、こっち」と先輩に手招きされた。
『嘘!?』と、彼女との再会に何か運命めいたものを感じたのも束の間「これ俺の女の深月」と先輩は彼女の肩に手を回して抱き寄せた。
あ…そう…
四度目の偶然で、一瞬にして膨れ上がった期待が、一気に萎んでゆく。
そんな俺の気持ちをよそに、先輩は向かいに座っている女の子を指さして「こっちが中屋でー…こいつがトム」と、俺のことも指差して、適当な紹介をした。
「あ、どうも…」と、俺が頭を下げると、中屋さんも「どうも…」と、少し緊張した面持ちで俺に軽く頭を下げた。
紹介したいのはこの子?
そう疑問に思ったのは、その中屋と呼ばれた女の子がとてもつまらなさそうな顔をしているからだ。
出会いを求めているようには思えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!