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じっとりと湿り気を帯びた夜の空気は重たくて、吸い込んだ酸素はきちんと肺まで届いた気がしなかった。
「へぇ…」
俺は平然を装ってそう言ったが、内心はひどく動揺していた。
そして、それを悟られていやしないか心配になり、俺は中屋さんを見つめ返した。それなのに、中屋さんが目を逸らさないもんだから、数秒間見つめ合って、結局俺が先に目を逸らした。
もしかしたら、中屋さんは俺の気持ちに気づいているのかもしれない。
「やめなさいよ」という無言の圧力か、はたまた「叶いっこないよ」という同情か…
俺を見つめる中屋さんの瞳のメッセージを、俺は察することができなかった。
「じゃあ…また来週、花火大会で」
地下鉄駅まで送り届けてそう言うと、中屋さんはコクリと頷いて手を振った。
来週の金曜日、河川敷で開催される花火大会に四人で行くことになっている。
花火大会に行くことを決めた日、深月さんと中屋さんは浴衣の話で盛り上がっていたから、当日は二人の浴衣姿が見られるかもしれない。
花火大会の醍醐味は、綺麗な花火と和装美人だ。
浴衣の襟元から覗くうなじは堪らなく色っぽい。そして、かっちりと着込んでいるあの帯を緩めて……
男の浪漫だ。
一人やらしい妄想を繰り広げて、口元が緩んでしまったのを、すれ違うカップルに変な目で見られて、俺は取り繕うように口に手を当てて咳払いをひとつついた。
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