隣の部屋

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「……で、実際にはどうなんだよ……?」 「周辺の治安が少し悪いから変な噂が立ってるだけで、普通のアパートだよ」 「…本当か?」 「本当だって。それに、そんなに人が死んでるなら事故物件扱いになってるはずでしょ?あそこは事故物件になった事無いし、噂に尾ひれがついてるだけだよ」  そう言うと、友人は少し考えてから「まぁ、言われてみれば確かに……」と半信半疑ながらも納得した様子だった。  午後の授業も終わり、運動部が活動を始めてグラウンドが活気付く音を聞きながら帰路に着いた。  あの部屋が事故物件にならないのは、室内で自殺や殺人などの事件が一切起きていないからだ。  大切な友人に嘘をついた。もしかしたら死んでしまう可能性すらあるというのに、僕の足は軽やかに動いた。  ――あぁ、また人間の死を感じる事ができる。しかも今回は僕の身近な人間かも知れないなんて、僕はなんて幸運なんだろう……。  胸の高鳴りが治まらず、僕の足はアパートに早く帰りたいと言わんばかりに躍動した。  アパートが見えた。お母さんがベランダの洗濯物を取り入れているのが見えた。  ――そして隣の部屋のベランダには背の高い人のようなもの、手足の本数や体の向き、顔のパーツ、その全てがグチャグチャになっている何かが立っていた。  僕はアレを”カミサマ”と呼んでいる。  カミサマは僕にしか見えていないようで、いつの間にか、気付いた時には隣の部屋のベランダに立っていた。  隣の部屋の様子がおかしくなったのはそれからだ。  正月の福笑いみたいに、まるで目を閉じて人間のパーツを適当にくっつけたようなその姿を初めて見た時は少し驚いたが、今では感謝している。  死を身近に感じる事で、僕の人生は以前よりも色鮮やかに輝いて見えるようになったからだ。  カミサマによって、これからもたくさんの人が死んでしまうんだろう。  それをずっと近くで見ていられると思うと、自然と口元が緩んでしまう。
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