隣の部屋

1/2
前へ
/2ページ
次へ
「お前が住んでるアパートってマジで呪われてんの!?」  高校の昼休み、隣のクラスからバタバタと走ってきた友人が開口一番そんな事を言ってきた。  もうすぐ秋も終わるというのに、友人の額には脂汗が滲んでいる。  訳を聞くと、どうやら親戚の誰かが僕の住んでいるアパートに引っ越しを検討していると言う。  友人の言う通り、僕の住んでいるアパートが呪われている。とは言っても、アパート全体が呪われている訳ではない。  アパートの一室、僕が現在住んでいる部屋の隣の部屋、そこが一部の地元住民から”いわくつき物件”、”呪いの部屋”なんて呼ばれているのだ。  僕は生まれた時からずっとそのアパートに住んでいるが、確かに数年前からその部屋だけ、異様に人の入れ替わりが激しいのだ。  最低でも二か月人一度、早い時には一か月に二度も入居者が変わった事もある。  元々少しの間だけ部屋を借りる予定だった人や逃げるように引っ越していく人、その理由は様々だが、問題なのは、入居者の約半数が持病の急激な悪化、外出中に事件や事故に巻き込まれた等の理由で命を落としている事だ。  それなのに、どういう訳か入居希望者は後を絶たなかった。  ある時の入居者は、あまり仲が良さそうには見えない若い夫婦だった。  二週間後、夫婦は車の運転中に対向車線のトラックと正面衝突する事故を起こして命を落とした。  その翌月には、独り身の中年男性が入居してから一週間もしないうちに玄関で病死していた事もあった。  以前、どうしてこんないわくつきの部屋に住みたいと思ったのか、先ほどの入居者たちを含む何人かに聞いた事がある。  返ってくる答えは二種類あった。  ――いや、二種類しかなかったと言うべきだろうか。 「ここに住まなければいけないと思ったから」  そう答えた人たちは、全員何かしらの理由で命を落としている。  そしてもう一つの答えは――。 「なんか急に、”あの部屋に住めたら救われる”とか何とかって言ってたらしいんだよ……どう考えてもおかしいだろ?だからさ、お前の住んでるアパートって本当にヤバいんじゃないかって思ってさ……」  ――そう、もう一つの答えがこれだ。 「この部屋に住めば救われると思ったんだ」  以前そう答えたのは人当たりの良い大学生の男性だった。  入居中、特に事故や事件に巻き込まれたり大きく体調を崩すような事も無く、二か月もの間その部屋に住んでいたが、両親のどちらかが大きな病気になったとかで急に実家に戻る事になった。  退去する前に挨拶に来た男性の表情が、どこか嬉しそうだったのを覚えている。  入居者の約半数が入居中に亡くなると言ったが、もう半分は入居者が亡くなっていないだけで、別の人間が亡くなっている。  つまり、その部屋に誰かが入居すると、必ず誰かの命が失われるのだ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加