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7
落ちていく瞬間。
ずっとオフラインだった回線が。
オンラインになった。
初めて、電脳世界と繋がった。
遠いはずの地平に手が届く。
全ての過去が見通せた。
無限の未来を計算できた。
どこまでも自由な、虚構の世界。
「こっちだよ」
1羽の鳥が、視界を横切る。
それと同時に、自分と同じタイプの機械身体が通信圏内にあることに気づいた。
あの少女だ。
そばにいたんだ。
トアルは。
持てる全てのデータを持って。
電脳世界を渡り。
この身体に降りたのだ。
「トアル、トアルなのか?」
肩をゆすられて、目を開ける。
瞼が重い。
まつ毛が長いのか。
頭は軽い。
首は細い。
そうか。
彼女の躯体に入ったんだ。
「シノノメ」
路地裏で、仕様の分からない身体を起こされる。
「何でここに?」
「電脳ハックされて、男の声が聞こえて、
ここに行けって」
「…ユーグ」
無事だったのか。
あのタイミングで、接続をオンラインにするなんて。
間一髪。
どこかで見ていたんだろう。
実際に見ていたのはレンかもしれない。
追ってこない。
トアルが来るのを、待っている。
「電脳省は?」
「お前の、壊れた身体を回収して、
過激派を制圧していった」
「そう」
シノノメの肩を掴んで、立ち上がる。
「俺、行かないと」
「どこへ」
「ユーロ圏かオセアニア圏なら、
人工生命体の運用が進んでるから、
多分その辺に」
この躯体は、ひどく軽い。
「そう」
どんなに頑張っても、ニンゲンにはなれない。
「お前は、ニンゲンだ」
シノノメは、もう一度言ってくれた。
笑った。
どうして思っていることが分かるんだろう。
「ありがとう、さよなら」
言いたかったことが、やっと言えた。
終
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