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ひどい嘘だった。 友だちになりたいだなんて。 勝手に反電脳主義者(ナチュラリスト)だと思っていた。 電子脳チップのないあいつが、自分を知らない世界に連れて行ってくれる気がしていた。 勝手に期待して、幻滅しただけだった。 「お前はなんなの、トアル」 伸ばした手が、振り払われる。 「いたっ!」 硬い音。 ひどく硬い音だった。 その音に、トアル自身も動揺したようだった。 逃げようとして。 「待て!」 痺れる手で。 今度こそ掴んで。 振り払うのを躊躇したあいつは。 逃げ惑って足を踏み外した。 「トアル!」 一緒に重力に引かれて。 真っ逆さまの転落。 何もできないまま。 すぐ下の海面に叩きつけられる。 冷たい。 肺の空気が押し出される。 沈んでいく。 自分が吐く泡の向こう。 掴んだ腕を揺らす。 沈んでいくだけ。 息がもたない。 引っ張ろうと水を蹴る。 一緒に沈んでいく。 「シノノメ」 声が聞こえた。 水中なのに。 思わず止まった。 「俺は、大丈夫だから」 青い水の向こうで、トアルが笑った。 何を言ってる。 泡を吐くこともなく。 なぜ。 喋ることができる? 首を振って、あいつの腕をもう一度引いた。 ゆるやかな重力に引かれるだけ。 トアルは困った顔をして。 俺が掴んでいた、トアルの腕が。 突然。 ちぎれた。 「…ト…!」 最後の息を吐き出した。 トアルの右腕を掴んだまま。 水面へ昇る。 トアルは、どこまでも落ちていく。 どうやって帰り着いたのか。 多分、電脳省勤めの叔父が、いつまでも帰らないのを心配して、防犯ネットワークを使って探し出したのだろう。 何も聞かなかったのは、叔父の優しさだろうか。 それとも、その電脳を駆使して全て知っていたからだろうか。 気づくと家のリビングで、目の前に水の入ったコップを差し出されていた。 そしてそれを受け取ろうとして。 今の今まで、その手に握り続けていたことに気づいたんだ。 トアルの。 右腕。 「ひ…」 ガチャン 落としたそれは、硬い金属の音がした。
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