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落ちていく瞬間。 ずっとオフラインだった回線が。 オンラインになった。 初めて、電脳世界と繋がった。 遠いはずの地平に手が届く。 全ての過去が見通せた。 無限の未来を計算できた。 どこまでも自由な、虚構の世界。 「こっちだよ」 1羽の鳥が、視界を横切る。 それと同時に、自分と同じタイプの機械身体が通信圏内にあることに気づいた。 あの少女だ。 そばにいたんだ。 トアルは。 持てる全てのデータを持って。 電脳世界を渡り。 この身体に降りたのだ。 「トアル、トアルなのか?」 肩をゆすられて、目を開ける。 瞼が重い。 まつ毛が長いのか。 頭は軽い。 首は細い。 そうか。 彼女の躯体に入ったんだ。 「シノノメ」 路地裏で、仕様の分からない身体を起こされる。 「何でここに?」 「電脳ハックされて、男の声が聞こえて、  ここに行けって」 「…ユーグ」 無事だったのか。 あのタイミングで、接続をオンラインにするなんて。 間一髪。 どこかで見ていたんだろう。 実際に見ていたのはレンかもしれない。 追ってこない。 トアルが来るのを、待っている。 「電脳省は?」 「お前の、壊れた身体を回収して、  過激派を制圧していった」 「そう」 シノノメの肩を掴んで、立ち上がる。 「俺、行かないと」 「どこへ」 「ユーロ圏かオセアニア圏なら、  人工生命体の運用が進んでるから、  多分その辺に」 この躯体は、ひどく軽い。 「そう」 どんなに頑張っても、ニンゲンにはなれない。 「お前は、ニンゲンだ」 シノノメは、もう一度言ってくれた。 笑った。 どうして思っていることが分かるんだろう。 「ありがとう、さよなら」 言いたかったことが、やっと言えた。 終
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