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人が減るのかな?
最近、美香が夫とよく行く『西秀』にお運びのロボットが何か月か前から導入されている。
調べてみると一応AI機能も付いているようだ。
最初のうちは汁物は運ばず、それも、若くて対応できそうなお客様にしか運んでいなかった。
従業員の様子を見ていると、どちらかと言えば、大勢のテーブルなどでお客が帰った後の片付けに重宝しているようだった。とにかく『まータン』というニックネームを首に下げられたロボットが
♪ジャンジャジャンジャジャン♪
と音楽を繰り返し移動していくのを見ているだけで面白い。
レジ横に帰るときは一つだけ指定されたボタンを押すと帰る仕組みになっているらしい。
そして、段々来るお客も周知し始めた最近は、二人分の汁物も運んでくるようになった。それもお客が取りやすい様に絶妙な角度で持ってきて止まる。
あの音楽がなると店内のみんながロボットを見る。
そして、店の人間も対応できなさそうなお年寄りにはロボットを派遣しない。まだ人間が懐柔しているのはそこでわかる。
店のオーダーも今は半分くらいのテーブルがタブレットだ。
去年暗いからいた、年配のお祖父ちゃんは結構すぐに辞めてしまった。でも、同じくらいに入った年配のおばちゃんはずっと頑張っていたのだが、ロボットが大抵のお客さんに食事を運べるようになってからは見なくなってしまった。
まだロボットがいないお店に配属されたのか、それとも首になったのか。
AIはこれからどんどん需要を伸ばしていくだろう。一部の学者さん達だけではなく、こんなふうに一般の社会の中でもどんどん認知されていく。
その分、雇用が減るのは会社は助かるだろうが、社会は困るのではないだろうか。
まだ、食器を下げるのとテーブルを拭くのは人間がやっているのだが、昼の忙しい時間なのに、店の表には人間が2人しかいなかった。
厨房で食事を作っているはずの人が、実は既にAIだったりしたら驚きを隠せない。
AIロボットに仕事をとられた人たちが生活保護に走ったらそれでなくても苦しい日本の経済は回らなくなる。
かといって、AIの進化について行かれない会社もきっと経済の波に置いて行かれてしまうだろう。
♪ジャンジャジャンジャジャン♪
まータンが美香の注文した野菜たっぷりたんめんを運んで来た。
下のテーブルには夫が頼んだルーローチャーハンも乗っている。
お腹が空いていた美香は、さっきまで真剣に考えていたことも忘れ、タンメンにお酢とコショウをかけ、猫舌なので火傷しないようにフウフウと野菜を拭き始めた。
夫が『帰る』ボタンを押すと
♪ありがとうございました。ジャンジャジャンジャジャン♪
と、レジ横まで帰っていく。もう、その姿を誰も珍しい眼で見ない。
この店内ではまータンはすっかりと認識された店員さんなのだ。
【了】
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