第2章

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宇都宮は液晶端末を操作し、アプリの通話機能を立ち上げた。首から下げたロケット付きのネックレスをシャツから引き出す。必需品の変声機だ。しばらく待つと、相手が出た。 「今週、5件ほど仕事できそう?」 「……はい」 「助かる。モノは送っとくから、よろしく」 「わかりました」 淡々と短く答えるこの男も、いつも期限内に堅実な仕事をしてくれる。だが、念には念を、だ。 「久しぶり。忙しい?」 「忙しくないことなんてないですよ?知ってるでしょ」 「悪い。でもお願いしていい?」 「断れないの、知ってるくせに」 「あはは、でもちゃんと睡眠時間は確保してね?」 「お肌のためにもね」 一転、この子はああ言えばこう言うタイプ。気が強い女の子だけど、ズブズブの男社会でバリバリやるにはこのくらいじゃないと。 「じゃ、2件だけ」 「送っといてください。締切飛ばしたらごめんなさいだけど」 セリフに本業がチラ見えする。宇都宮は、彼女がなんだかんだ言っていても期限内に必ず任務完了することを知っている。 アプリを落とし、もう1杯ドリンクを作ろうかと逡巡したが、明日のことを考えてやめた。名古屋か。寒くなってきたし、そろそろ味噌煮込みうどんが食べたい。自身の任務とは関係ない欲求が、宇都宮の頭をよぎる。自分の任務は、有能な部下に仕事を振ることだ。今のところは。 店の明かりを落とし、重たいドアを閉める。鍵をかけてそれを確かめると、鎖につながれた『closed』の文字が揺れた。
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