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東京の夜は明るい。煌びやかなネオンと夜型の人々の喧騒で、実際明るいのだろうけれど、物理的な光量と音量に増して明るく感じる。それは自分がこの夜をいたく気に入っているからに違いないと、安曇 朔は思っていた。
仕事を終えて帰宅し、シャワーを浴びて着替え、眠らない街へと繰り出す。ここから徒歩圏内に部屋を借りたのは、目的地に近づくに連れて大きな波となってくる神経の昂りを感じたいからだった。
携帯端末を取り出して、メッセージアプリのアイコンをタップする。夕方目を通したメッセージが、ちゃんと消えているのを確認した。自動で消えると分かっていても、つい確認してしまう。用心深い性質はこの仕事に向いている、と上司は言っていた。
「何杯目?」
落ち着いたアルトと共に、肩に手が置かれた。
「さっき来たばかりだよ。お疲れさま」
ほとんど物音を立てずに隣に座ったのは、松咲 ユキ。夜にも関わらず、栗色のロングヘアはゆるく巻かれた状態をキープしていて、淡いトーンのパンツスーツには皺ひとつない。くっきりとした目鼻立ちとぽってり厚めの唇は、メイク次第でさぞかし色気のある仕上がりになるだろうと思われるのだが、色みを抑えたお仕事モードでまとめていて全く隙がなかった。
「イメージ違うよね。秘書課のお姉さんって、タイトスカートで斜めに足組んでるもんだと思ってた」
「わかる。で、こうやって社長とか重役を誘惑するんでしょ」
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