第3章

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午後の会議に重要な議題を入れるのはやめてほしい、松咲 ユキは常々そう思っていた。自分自身のことではない。ユキが担当している上司である峰川(みねかわ)専務が、睡魔に耐えきれないからだ。会議の議事録は、専門の書記が取っている。それを参考に、後で専務と頭を突き合わせて確認作業をするのは、二度手間もいいところで、非合理的極まりない。 『山峰商事(さんぽうしょうじ)』は国内でも規模の大きな総合商社だ。取り扱い部門は多岐に渡り、取締役と名の着く肩書の偉い人が何人も居る。ユキの社内での肩書きは、専務付秘書。創業者一族の3代目である峰川は、現在49歳。絵に描いたようなドラ息子で、とてもではないがトップの器ではなく、どう足掻いても専務止まりと言われていた。 「専務、週末のパーティーの件ですが」 「ん?えーと、なんだっけ?ノーレザン?アパレル?」 「そうです。奥様ご同伴されますよね?」 「ええー、松咲さんが来てよー。苑子(そのこ)じゃ会話にならないよ」 「ですが、招待状には奥様のお名前も……」 「んー、困ったなぁ」 困るのはこちらです、ユキは言葉を飲み込んだ。全く、専務も専務なら奥様も奥様だ。峰川夫人は大手ゼネコン創業家の三女。典型的なお嬢様育ちのマダムで、天然物の美人だが自分を飾ることに余念がない。趣味はワインで、セレブな料理教室に通っているが、峰川家の食事はもっぱら家政婦さんが作っている。お金は湧いてくるとでも思っているのか、夫の仕事には全く興味がない。
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