第3章

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日中、切れ者の秘書として社内を回しているユキだが、任務中は真逆の女を演じている。精神的に男の上には立たない。常に下から媚びる。自分からアピールして『誘われたがっている』と思わせる。それが任務であることは別として、種類の違う人間を演じることは、単純に面白かった。 「専務、私も出席します」 「お、秘書オッケー?良かったー。これで安心して美味いもの食えるわ」 「ご挨拶する方のリストは事前にお渡ししておきますね」 「うん、助かる。挨拶しとけばいいんだよね?」 「……ええ」 ユキはワンテンポ遅れた肯定の裏の台詞を飲み込んだ。能天気な上司に、挨拶とその後に繋がる気の利いた一言を、と言いたいところだったが、そこは自分でなんとかしよう。この上司に期待するのは、そこではない。社内に創業者一族の血を絶やさないことだけが、この男の存在意義なのだから。 専務が専務である全くもって時代錯誤な理由に、ユキは苦笑する。旧世代の典型である元上司が、そう望んだからなのだ。先代会長には本当にお世話になった。専務の父親は創業者一族の二代目だが、七光を全く感じさせない辣腕経営者だった。社長から会長まで長らくトップを勤めたが、すでに職を退いている。今は軽度の認知症を患い高級高齢者施設住まいの先代会長は、ユキにとって恩人であり全ての始まりだった。
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