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外資系のラグジュアリーなホテルの宴会場に、ファッションショーのステージが設営されている。ここを先程まで、アパレルブランド『ノーレザン』のニューラインを纏ったモデルが闊歩していた。張り出した花道だけが撤去され、代わりに置かれたテーブルの上に、次々と運び込まれてくる料理から、食欲をそそられる匂いがする。
「あ、どうも」
分かってはいたことだけれど、気が休まる暇もない。峰川専務には、ひっきりなしに声がかけられる。ユキが事前にリストを渡しておいた甲斐もなく、相手が誰だか全く理解していない様子の峰川は、グラスを片手に軽い会釈で返した。
「社長、デザイナーさん、こちらも兼務してらっしゃるんですよね?」
「ん?うちの?そうそう、専属じゃないから、そこは本人の裁量でね。布モノもいいでしょ?」
「ハイ、さりげないスパイスの効いた感じ、やっぱりアクセと共通するところがありますよね」
「だよね。一緒に盛り上がってくれるとありがたいよね」
ユキの話している相手は、某ジュエリーブランドの社長だった。今日発表のニューラインに、このブランドのカジュアルラインのデザイナーが参加している。もちろん事前に得ておいた情報は、フル活用だ。
「カジュアル使いができるのに、ハイブランドと合わせても浮かないところ、ホント重宝してます」
言いながらユキは、ハイブランドのスクラッチバッグから、シンプルなキーホルダーが付いた鍵を取り出して見せた。
「使ってくれてるのー?ありがとう」
「ふふ。お気に入りなんです」
ユキは自然な仕草で微笑んでみせ、峰川が隣で満足げに頷く。実に上手くできた連携プレーだ。夫の杞憂通り、苑子夫人は偶然見つけた顔見知りのセレブ友達と、向こうの方でワインの品定めに忙しくしている。二言三言交わすと、ジュエリー社長はご機嫌でその場を離れてくれた。
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