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「消すよ?」
「はーい」
安曇は端末をトントンとタップして、表示させたリストを完全に削除した。
「というわけで、これ」
「4つ?」
「だね」
「いつもありがと」
安曇がユキの手に握らせた、どこにでもありそうな心付用のポチ袋には錠剤が入っている。それをジャケットのポケットに入れ、ユキは椅子を引いた。
「もう行くの?」
「ん。仕事が早いのは出来る人間の必須条件よ」
彼女の仕事が早いのはもちろんだが、頭脳の構造も特殊だ。安曇がさっき見せた端末の画面は、あの一瞬でユキの脳に完璧にインプットされている。リストはそのまま画像として脳内に保存されるらしい。
「俺も取り掛かろ。また今度ゆっくりな」
「そうね、ゆっくりできる日が来るといいわね」
ユキの残した酒のグラスは、音もしないうちにマスターによって下げられていた。安曇の前には、いつの間にか2本目のジーマの瓶が置かれている。ここでもう少し作戦を練れってことか。
再びひとりになったカウンターで、安曇は物憂げな表情を浮かべてライムをかじった。すっきりとした柑橘の香りの向こうに、ユキの残した微かなパフューム。残り香まで美人かよ。そう脳内でぼやく安曇も、身長こそないものの、整った容姿をしている。
色白の肌。それに似つかわしく、長い睫毛に縁取られた三白眼にかかるサラサラの髪は、染めていないにも関わらず色素が薄い。アルコールが入っていない時でも頬には薄紅がさしたようで、夜のネオンの下では人目を引いた。童顔とラフな服装のせいか、とても28歳という良い大人には見えない。この仕事をする上では、無防備なキャラの方が何かと都合が良いのだ。
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