第1章

4/11
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/99ページ
「消すよ?」 「はーい」 安曇は端末をトントンとタップして、表示させたリストを完全に削除した。 「というわけで、これ」 「4つ?」 「だね」 「いつもありがと」 安曇がユキの手に握らせた、どこにでもありそうな心付用のポチ袋には錠剤が入っている。それをジャケットのポケットに入れ、ユキは椅子を引いた。 「もう行くの?」 「ん。仕事が早いのは出来る人間の必須条件よ」 彼女の仕事が早いのはもちろんだが、頭脳の構造も特殊だ。安曇がさっき見せた端末の画面は、あの一瞬でユキの脳に完璧にインプットされている。リストはそのまま画像として脳内に保存されるらしい。 「俺も取り掛かろ。また今度ゆっくりな」 「そうね、ゆっくりできる日が来るといいわね」 ユキの残した酒のグラスは、音もしないうちにマスターによって下げられていた。安曇の前には、いつの間にか2本目のジーマの瓶が置かれている。ここでもう少し作戦を練れってことか。 再びひとりになったカウンターで、安曇は物憂げな表情を浮かべてライムをかじった。すっきりとした柑橘の香りの向こうに、ユキの残した微かなパフューム。残り香まで美人かよ。そう脳内でぼやく安曇も、身長こそないものの、整った容姿をしている。 色白の肌。それに似つかわしく、長い睫毛に縁取られた三白眼にかかるサラサラの髪は、染めていないにも関わらず色素が薄い。アルコールが入っていない時でも頬には薄紅がさしたようで、夜のネオンの下では人目を引いた。童顔とラフな服装のせいか、とても28歳という良い大人には見えない。この仕事をする上では、無防備なキャラの方が何かと都合が良いのだ。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!