第1章

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***** 馴染みのクラブのフロアで、安曇は目的の人物を探していた。そんなに見た目が良いのならば、見覚えがあってもおかしくはない。26歳。少しだけ年下か。185センチの細身。長身だから目立つな。リストに記載されていた年恰好を考えながら、チラリチラリと顔を見てまわる。ここの客は相手を探すという目的を持っている者が多いので、行動を不審がられることもなかった。 全く、と脳内で安曇はボヤく。全く、リストに顔写真もないなんて、どうかしてる。不満を訴えたことはもちろんある。顔なんて、今どきメイクで驚くほど盛れるし、SNSに流れてくる写真なんて無加工のものを探す方が難しい。意味がないからなと、顔も知らない上司が言っていた。そんなことを言うくらいだから、電話越しの声を知っていたとしても、それすら加工してあるのだろう。 事前情報で参考になるのは年齢と背格好ぐらいだ。それから、なぜか最重要事項になってしまっている、性的嗜好。あとは会話の中からターゲットを特定し、任務を遂行する。こんな無茶振り、達成できると思ってんのかな。できると思われての採用なんだろうし、実際できているのだけど。 金曜の夜だ。休前日の解放感は、フロアを賑やかにする。夜も深い時間になってきたが、安曇と同じように、ある程度他店で飲食し、高揚した状態の客が多い。
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