第1章

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知り尽くしたこの街での任務は、取り掛かりが容易い。この後何処に連れ込むのか、どのタイミングで任務遂行するのか、歩きながら脳内でシミュレーションする。 今夜の相手はアタリだから、まずはそっち優先でもいいかな。上司には、そこまで詳細に報告する義務はない。長身の男に軽くもたれかかりながら、淡いグレーの建物の前で安曇は足を止めた。 「……ここにする?」 「いいね」 大人しめのネオンが、この界隈では逆に淫美だ。手慣れた仕草で、安曇はいつもの部屋を選んだ。 そこまで気乗りのしないターゲットと、ここで寝る日もある。そんな時の安曇は任務優先だ。ターゲットがシャワーを浴びている間にスマホから情報を抜き取る。次もと思わせないよう、行為は淡々と済ませ、後腐れなくサヨウナラ、だ。 別に最後までしなくても、と電話の向こうの上司は気配で眉を寄せる。任務完了さえできれば問題はないからだ。でも、ベッドに上がってからは自分の裁量なので、と安曇は常々言っていた。行為は日々の鬱憤をスッキリさせてくれるし、身体のコンディションを整えてもくれる。 今夜の安曇は浮き足立っていた。わかりやすくイケメン相手だと、やはりテンションは上がる。これであっちも上手だったら言う事なし。今夜のターゲットなのはほぼ間違いないし、まさに一石二鳥ってやつだ。
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