第1章

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「……ミチくん、キレイな身体だね」 上半身肌色の男が、うっとりと口にする。当然だ。こちとら身体が資本の仕事なのだから、手入れを怠ってはいない。 「ありがと。カンタさんもめっちゃいい身体してる!」 急いた気分を押し込めて、じっくり時間をかけて脱がせたシャツは、椅子の背もたれにかけてある。程よく筋肉のついた想像どおりの身体を素直に褒めると、カンタは目を細めた。 任務中に限らず、この街で本名は名乗らない。それはきっと相手も同じだ。ターゲットで合っているならば、この男の名前はカンタなどではない。安曇はいつも、学生時代にアプリで適当に遊んでいた頃の名前を使って、この部屋での時間を過ごす。朔の反対は満だなんて、単純だけど粋なネーミングだったと、10代の自分に賞賛を送る。 外装と同じく余計な装飾のない部屋は、どんな興奮の最中にあろうとも、任務中の安曇を冷静にさせてくれる。こいつ、タチだと思ったんだけど、攻められ好きな男だな。脳内で独り言にして、相手に合わせたネコに徹した。 「カンタさん、早く」 纏った全てを脱ぎ去った安曇は、限界まで張り詰めた相手のそれを当てがい、本心から強請った。今この瞬間は、これが誰のものだろうと構わない。激しく身体をグラインドさせて自分の快感を追い求める。 「……いいッ、めっちゃいい」 「俺、も」 カンタは恍惚の表情を浮かべている。やはりこの男は、組み敷かれる方が好きなのではないだろうか。早々に上に乗った安曇は、これで正解だったと心の中で頷いた。
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