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異世界って枠
「こら! 杏璃! テメェどう言う了見だ!」
「どう言う了見も何も、あたしはゲームがしたいって言ってるだけじゃない! この、頑固オヤジ!」
昔の大名作りの広い屋敷の中で繰り広げられてるのは、年配だが目つきの鋭い男が金髪で頭頂部からすこし黒くなっている二十代後半と見える娘に向かって怒鳴り合う、壮大な親子喧嘩だった。
ただ、少し違う様相を見せているのはこの屋敷が何代も続く、ヤクザの組長の家だったからだ。
「大体ねぇ、お見合いなんて勝手に決めて来るんじゃねーよ!」
「お前がいつまでたっても跡目を継がないからだろうが!!」
映画に出て来そうな座敷が繰り広げられる親子喧嘩のせいで、それこそ映画に出て来る抗争の様な有様だった。
「あたしはヤクザになんかならない! 大体このご時世でヤクザなんてやってられないでしょうが!
上納金だなんだで暮らすのはもう無理なの!時代遅れなの!」
もう昔のヤクザの様に生きていく時代は終わりをつげ、IT関係のインテリが勝ち残っていく時代になっていた。
「うちみたいな昔ながらのヤクザじゃなくて、ITの会社を作ってやって行くのが一番なのよ!
その為には結婚なんて二の次だし! まずはゲーム作ってアプリ売って、動画撮って売っていく! それがうまく言ったら考える事なんだから!」
娘の言い分の中のカタカナやアルファベットを理解しがたい父親は、捲し立てられる娘の言葉にとうとう閉口した。
「勝った!
このゲーム、絶対売れる! なんて言ったって流行りの乙女ゲームの第三弾なんだから!
素人が作ったにしてはいい感じだし、まだプレイしてないからどんな風か分かんないけどラノベはしっかり読んでるし、第一弾のゲームはやり込んだし!
第二弾では新しいキャラにRPG要素が加わって、ただ攻略するだけじゃなくなったんだから、その要素を入れつつ更にちょっと大人向けのゲームにさせたのよ!
だから、この第三弾だって新しいキャラとか設定を足してもらったから、売るわよ!」
一攫千金と叫ぶ娘の姿に、父親は項垂れるしかなかった。
そしてセカンド以降あるあるで、ク〇ゲーとかB級と言われる可能性が高いことは全く頭に無い言動だった。
もっと言うなら素人に作らせた、と言う所だった。
「杏璃、良く分かった。
好きにしなさい。 正し、親子の縁も切る! 今すぐ出て行け!!」
「はぁ? 分かったわよ! もう二度と会わないわよ! くそオヤジ!」
杏璃と呼ばれた娘はそのままの勢いで玄関を飛び出して門を走り抜けた所で、どこかの組が乗り込んで来てそのまま車で轢き殺された。
「杏璃!!」
父親の声が聞こえるが、遠くで響いてる感じで、意識は暗い闇に沈んで行った。
「ここ、どこ?って、あたし、車に惹かれちゃったんじゃないかしら。
痛い所、は無いわね」
寝転がっていた体に力を入れて起き上がると、とても事故にあった体とは思えない程どこにも痛みは無かった。
ただ、起き上がる時に顔にかかった髪の毛が長くて、ピンク色だったのを除けば、問題は無かった。
「いやいや、問題だわ、なにこれ?
あたしの髪はブリーチし過ぎて切れぎれの、金髪なのに!
ピンク? ピンクなんて原宿の若い子とか池袋とかにいる子じゃない!
あ、新宿にも大勢いるわね、ホームれるみたいなっ……っと、しまった。
インナーカラーってわけでも無さそうだし、全体がピンクって!」
杏璃は一人ボケツッコミを繰り返し、倒れていた状況とか現在地を確認することが先決だと動き出した。
多少パニックだったものの、随分と冷静に動き出したのだった。
「なんか、異世界転生みたいじゃない?」と。
実際、異世界なのだが。
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