弱きもの

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「一体何がどうなっとるんや」 「この子は助かるんやろな」 「ここはあんたらの敷地内やろ。放置してったら許さんで」  事ここに及んでも血相を変えて大声を張り上げる老婆たちを見て、逆に私は幾分か冷静さを取り戻した。 「大丈夫だと思います。もう少し待っていて下さい」  私は何とか安堵してもらおうと、努めて穏やかにそう言ったのだが、市役所に電話をしてきた老婆からこんな言葉が返ってきた。 「何とかしてや。こんなとこで死なれたら後味悪いわ、ホントに」  私は思わずその人を睨みつけてしまった。あとの二人も驚いたようにその人に視線を投げる。少なくともこの人は猫の心配などしていないのだ。 「な、なんね‥‥‥なんか文句でもあんの」 「いえ、とにかくもう少しだけ待ってください」  私に睨まれて動揺したのか、つい本音が出てしまって焦ったのか、その人のこれまでの勢いはなくなってしまったようだ。  しばらく待っていると、一瞬救急車でも来たのかと勘違いしてしまいそうな白のバンが目の前で停まり、そこからラフな格好をした男女二人が降りてきた。 「生活環境課の輪田さんでしょうか」  車から降りてきた女性の方から声を掛けられ、私は女性と車とを交互に見た。車には『NPO法人 セーブアニマル』と書いてある。 「え?あ、はい。私ですけど」  まさみさんがくるものだと思い込んでいた私は面食らってしまったが、すぐにこれはまさみさんが寄越したのだと気付いた。  男性の方は真っ直ぐにその猫へと向かいその場にしゃがみ込むと、そのままの姿勢でその猫に話しかけた。 「よく頑張ったな。今、病院に連れて行ってやるから、もう少し頑張ってくれよな」  そう言ってゆっくりと猫を抱え上げると、その人は慎重に歩を進めながら車へと向かっていった。
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