朝礼

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「まあまあそう焦らんでも」  そう言って課長は頭を掻いた。元々堅苦しい口調は苦手である事を熟知しての宮島さんの合いの手だったのだろう。 「実は、いよいよわが社にもAIを導入する運びとなりました」 「社じゃなくて所ですよ」  呆れたようにまさみさんが口を挟んだ。まあこれはいつもの課長の親父ギャグなんだけど、実際課長のソレは本当に笑えないものが多く、でも無視するとちょっと不機嫌になることもみんな知っている。それを踏まえた上でのまさみさんの言葉だ。 「そ、そうか、わはは」  一応滑っていることは分かっているらしく、照れ隠しのように視線を自身のパソコンへと落とした。 「ちょっとパソコンのトップページを見てもらえるかな。輪田さんは手元のタブレットを」  全員が一斉にそこに目をやった。そこには見慣れないアイコンが表示されている。 「新しいアイコンが追加されているが、それが今回導入された『チャントCGP』です。国が独自に開発した、市役所業務に特化したAIだそうだ」 「なんだかどっかで聞いたような名前ですが、これは何ですか」  私がそう尋ねると、課長は満足げに答えてくれた。 「これは市役所の業務、規則などに特化した質問に、人間のように完ぺきに答えてくれるAIだよ。それを先行して古村市に導入する運びとなったんだ」  先行導入というと聞こえはいいが、これは体のいい試験導入ではないのか。でも、そんな疑問を抱いたのは私くらいのようで、課内は一気にざわめき始めた。あの大人しい松葉さんの瞳までも輝いているように見える。まあ、普段から冷静沈着なまさみさんはそうでもないけれど、それでもいつもより少し目を見開いているようにも見えた。
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