活用

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 現地に着くと、三人のご高齢の女性が立っていた。その足元には確かに猫が倒れている。電話してきたのはこの中の誰かだろう。  私は路肩に車を停めると、軽く頭を下げながら声を掛けた。 「あの、お電話くださったのは‥‥‥」 「あら、市役所の方ね。電話をしたのは私よ」  一人がそう言うと、三人は揃ってその場でしゃがみ込み、そこにいる猫に視線を向けた。私もゆっくりとその猫を確認した。よく見ると少し震えているようにも見える。 「あの、この猫ちゃんって」  私が言い終わる前に老婆たちはその猫を慈しむように話しだした。 「可哀そうに、今にも死にそうなのよ」 「怪我してるようでもないし、何かの病気かしらね」 「職員さん、何とかして助けてあげて」  私は困ってしまった。生活環境課の業務はあくまでも飼い主不明の屍骸の回収だ。どんなに弱っていたとしても、生きている以上回収はしてはいけない。  そのことを告げると、老婆たちは態度を豹変させ、捲し立てるように私を責めだした。  この人たちは目の前の市営団地の住人らしく、ペットを飼うことは禁止されている。でもその入り口に猫缶が散乱しているのを私は見逃さなかった。  おそらくはここの住人の誰かが野良猫に連日餌を与えていたのだろう。この子はその中の一匹だと思われ、可愛がっていた野良猫が倒れているのを見つけて狼狽しているようだ。
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