活用

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 今はこの人たちに何を話しても聞く耳を持たないであろうことは明白だった。私は困ってしまい、まさみさんに対処法を乞おうとした時、ふと頭の中に課長の声がよぎった。  私は興奮冷めやらぬ老婆たちを必死になだめながら、車内に置きっぱなしにしていたタブレットを取り出し、女性陣の目の前に差し出した。 「なんだねそれは」 「これは、市で使っているパソコンです」  タブレットを知らないようなので、ここではあえてパソコンと言いう事にした。それを起動させてから例のアイコンをタップし、音声モードに切り替える。  訝し気にその様子を伺っている老婆たちに聞こえるように私は質問を投げかけた。 「私は生活環境課の職員です。通報を受けて猫の屍骸の回収に来ていますが、その猫はまだ生きていました。でも今にも死にそうです。どうすればいいでしょうか」  そう問いかけると、本当にAIなのかと疑いたくなるほどの流暢な日本語で話し出した。 『その猫は明らかにもうすぐ死にますか?』 「分かりません。病院に連れて行ったらもしかしたら助かるかも」 『その猫の飼い主が分かるようでしたらその人に任せて所に戻って下さい』 「いえ、どうやら野良猫のようです」  そこまで話すと、次に帰ってきた言葉はやはりAIだと思ってしまう程に事務的で冷徹な返答だった。
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