様さま

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様さま

 スマートフォンの音で、俺は目が覚めた。  生きていた。生きていたが。  俺は、所謂拷問部屋という所に案内されていたようだ。  天井から吊るされている。しかも真っ裸で。  そして、着地するであろう床には包丁がある。  ハナゾノの姿はない。  不幸中の幸い、俺のスマートフォンはテーブルの上に無造作に置いてあった。たぶん、データなどの初期化だけして置いていったようだ。 『もしもーし、聞こえますかー?』 「んーーーー!!」  喋れない。口にはボールギャグがはめられていたのだ。精一杯のうめき声をあげる。 「大丈夫ですか? 事件ですか? 事故ですか?」 「んん! んーーーー!」  いたずら電話と思われないかと焦ったが、程なく、警察のサイレンの音が聞こえてくる。  あのハナゾノと名乗る女はまた行方を眩ませたが、俺が今生きているのは、モース様さまなのである。  最後に俺がモースに指示したのは、 「明日の朝七時までにキャンセルされなかったら、明日の朝七時に、スマートフォンで警察に連絡を入れて」 だったのだ。  もし、あの指示がなかったら、俺はここにいなかったかもしれない。  じいちゃんが遺してくれた、AI音声認識サービスがなければ、暴かれなかった事件。  俺も生死を漂うことはなかった事件。  夏の終わりの事件であった。  ハナゾノは今、殺人と殺人未遂そして麻薬使用所持で指名手配されている。
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